「いい男と働いとったんか。そりゃ毎日充実やな。」 赤禰がにんまり笑うと入江は不機嫌さ満載の笑みで対抗した。さらに赤禰の煽りに伊藤が乗っかった。 「しかも一之助君の雰囲気は新ちゃんに似とるんやって。帰り際に熱い抱擁見せられたそっちゃ。」 「伊藤さん黙って。」 余計な事言うんじゃないよと睨みをきかせたが時既に遅し。 「へぇ。あの一之助君が抱擁したん?やるなぁ。女子嫌いの一之助君にそんなんさせた三津は悪女やな。」 三津は悪女は心外やわと不貞腐れてそっぽを向いた。 「木戸さんには何倍にもして言い返したのに入江さんには言い返さないんですね。」 伊藤は喉を鳴らして笑った。そうやって拗ねる顔がいつもの三津らしくていい。植髮 「九一さんには別に恨みとかないですもん。」 「やっぱ恨んどるん?」 赤禰もこれは桂の自業自得だからそれでも仕方ないなと半笑いで言った。 「恨みは言い過ぎました。不満です。でもその不満もようやく何とも思わなくなってたのに勝手な事されてんで押し殺したもんが,ぶわぁー!って出てきたって言うか……。」 「それだけ無理して我慢しちょったって事やろ。これからは我慢せんと普段から言いたい事言ったらいいそ。木戸さんも言っても通じん時はあるかもしれんが言わんよりマシや。」 高杉の言葉に三津は素直に頷いた。 「それでどんな文句ぶち撒けたん?」 三津の口からどれだけ辛辣な言葉が出たのか気になる。高杉と山縣は目を輝かせながら身を乗り出した。 「思い出したらまた腹立つから言いたくないんですけど……。妻になるなら一番好きな時になりたかったとは言いました。 後は初めて妻になったのも私やないし,先に小五郎さんの子を身篭ったのも私やないのもずっと心の中で引っかかってたから……怒りに任せて言っちゃいました。」 三津はヘヘっと笑って見せたけど,また泣きたくなった。 「おう。言え言え!言ってもう全部吐き出したなって思えたら,そこでやっと木戸さんと向き合えると思う。一旦全部空っぽにし。」 高杉はにっと笑って三津の頭を鷲掴みにした。 「三津さんの言葉がきつかろうがそれで構わん。 だって三津さんは木戸さんを貶めようとして言っとるんやない。やけぇ出る限りいくらでも言えばいいそ。俺らも聞くし,木戸さん本人もそれを聞いたら反省する。じゃけぇ三津さんは思ってる事言っていいそっちゃ。」 「ホンマにこう言う時だけまともな事言いますね。」 高杉はたまにだからいいんだろと笑い,頭を鷲掴みにしたまま額が引っ付くほど顔を寄せた。「三津さん,これからも木戸さんと九一を頼むわ。」 「言われなくても逃げられへんとこまで来ちゃいましたからねぇ。頼まれなくとも何とかするしかないでしょう。それより近い,離れて。」 三津はかかる息が酒臭いと高杉の胸をぐいぐい押した。自分もだいぶ呑んでるからきっと酒臭い。高杉に嗅がれるのはちょっとどころか凄く嫌だ。 「高杉君その辺にしといて。三津さんはまだ荷解きもしなくちゃいけないの。そろそろお開きにして部屋に返してあげて。」 「あ?白石さんおったん?」 「居たよ!?ずっと居たよ!?」 高杉の無礼に言い返す白石を見て,三津は戻って来たなぁと実感した。 「三津,荷解き手伝うけぇ部屋に行こうか。」 「じゃあここ片付けてから。」 三津は入江にちょっと待ってねと言って使い終えた器を片付け始めた。 「ここは俺と伊藤で片付けるけぇ部屋戻り。」 赤禰が三津から食器を取り上げた。入江はそう言う事だからとにこにこ笑って三津の肩に手を回した。それから広間を出る間際に赤禰に向かって“ありがとう”と口だけ動かした。 それを見た伊藤は赤禰を一瞥してからなるほどと顎を擦った。 「武人さんは入江さんの肩持つんですね。」 「んー?そりゃあ同情するわな。あの入江が俺らの前で泣いて悔しいって言うぐらいなんやけぇ。」