入江は予想していた返しと全く別の物が返って来て硬直してしまった。 「九一さん?」 三津は目を見開いたまんまの入江の顔を覗き混んだ。三津の顔が近付いたから仰け反ってぷいっと顔を反らした。 「そっ……そんな軽い気持ちで抱くわけないやろが。」 「そうですよね。九一さん冗談言いながらもちゃんと約束守ってくれてますもんね。」 ふふっと笑って三津は歩き出した。 『たまに心臓に悪いことしてきよる……。』 主導権は握ってるはずなのに不意に押し倒された気分になる。攻められたいと言いながら本当に攻められるとあわあわする。それから二人は川辺で休憩を取ったりしながらさくさくと山道を抜けてこの日の目標地点を少し通り越した宿場に到着した。 「三津さん凄いな。予定より進んでるしこれなら明日からもう少しゆっくりでも大丈夫や。」 そう言って褒めれば三津は嬉しそうに笑うが間違いなく脚に疲れは溜まっている。 宿に入り荷物を下ろしてから座り込んだままだ。 「今日はゆっくり湯に浸かり。」 三津は素直に頷いてお先にと湯浴みに出た。植髮 それから入江はごろんと畳の上で大の字になった。 「あー。一緒に浸かるかって冗談言うの忘れたー。」 自分も疲れてるなと鼻で笑って三津が戻るのを待った。 今日の職務から解放された桂は寄宿してる桶屋宅には戻らず阿弥陀寺に戻った。 三津達の相部屋を覗いてまだ帰ってないと溜息をついてしょんぼりとまた縁側で晩酌を始めた。 「ご一緒していいですか?」 「今日は赤禰君か。いいよ。」 赤禰は会釈をして桂の左隣に腰を下ろした。やっぱり赤禰は真面目だなと桂はうっすら笑みを浮かべた。自分に敬意を払う奴はここ最近居ないに等しい。 「昨日は晋作に慰められたよ。いや,貶されたのか?」 桂は悲しげに笑みを浮かべたまま手元の酒に目を落とした。 「三津さんとはどういった経緯で出逢われたんですか?」 「私と三津かい?あーそれはねぇ三津が私の手当をして追手から匿ってくれたのが出逢いだね。」 あの時の事は今でもたまに思い出すよと目尻を下げた。 「三津さんのどこに惚れたんです?」 「どこ?んーどこだ……。気付いたら気になっていて会いたいと願えば町でばったり会えたりしたんだ。それから彼女の事ばかり考えるようになってて……。会いたいと思えばいつも巡り会えていたから年甲斐にもなくこれが運命かと思うようになってたよ。」 酒のせいなのかこれが本当の姿なのか桂は緩みきった顔で惚気け始めた。 「そんな大事な相手何で泣かすんです。」 「本当に……。私はいつでも守りたいし笑顔にしたいのに間が悪いと言うか何というか……想いが通じてからは不甲斐ない事ばかりなんだ……。」 みんなに問い詰められた土方の一件にしろ高熱を出して苦しんでいた事にしろ,悉く何も出来ない自分に嫌気が差した。 「嫌われても仕方ないぐらい私は三津に酷い事しかしてないと思う。それでも三津は私と想いが通じただけでも幸せと……。」 桂は言葉に詰まった。三津がくれる言葉に甘えていた。傍を離れないと高を括って驕っていた。桂は深い溜息をついて俯いた。 「我々はまだ三津さんの事をよく知らんので。いい子やと言うのは分かりますけど。 だからお二人がどんな付き合い方をしとるのか全く見えんのです。」 「そうだね……。三津は今まで見てきた女子とは全く別の生き物みたいで……。 欲はないし媚も売らない。良く言えば控えめで悪く言えば無頓着。自分自身にも無頓着だしある意味私にも無頓着だ。 全然やきもちも妬かないし私に他の女の影がちらつくと嫉妬するどころかあっさり身を退くんだ。 そんな三津を私が追いかけてる状態で……。」 赤禰はなるほどなと納得した。伊藤が山縣の発言に激昂した背景がなんとなく分かった。 「三津は私を困らせる事は一切しないんだ。聞き分けが良くて物分りも良くて,常に私の為と尽くしてく