三津は首を横に振った。
軽蔑もしない。嫌いにもならない。
ただ驚くしか出来なかった。自分は弥一を知ろうともしなかった。
だから今は黙って弥一の言葉に耳を傾けた。
「良かった。
それで…どうしても知りたかったんです。三津さんがどんな人を好きになったのか。
おトキさんに聞いてしまいました。新平さんの事。」
三津の瞳が揺れた。
それを見て弥一は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「あ…えっと…。参ったなぁ。」
愛想笑いで誤魔化して,小首を傾げた。
それ以上言葉は続かなかった。
そこまで自分を知りたいと思っている事には驚きしかない。
それよりも,弥一の気持ちを無碍にしていた事が,何よりも胸を締め付けた。笑って誤魔化すのが悪い癖。
嫌な事,都合の悪い事は幾度となくはぐらかして来た。
今だって気まずさから息苦しくて逃げ出したい。
だから弥一から目を反らす。
『どうしよ…。』
確かに今でも新平が好き。
でも今は心を通わせる相手がいる。
正直に他に好きな人がいますと言おう。そう思ったが,
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『待って…それはそれでまた根ほり葉ほり聞かれて,桂さんを探されたりしたら桂さんに迷惑が…。』
何ならわざと幻滅されるような事をして嫌われてみようか?
『あー…アカンアカン!
土方さんに粗そうのないようにって言われてるんやった。』
そんな事をしたら,間違いなく土方の耳に入るだろうし,彼の事だからただじゃ済まされないと思う。
怒り狂う様が嫌でも頭の中を支配して全身から血の気が引く。身の毛もよだつ。
「あの弥一さん…。せっかくだから楽しい話をしませんか?」
お願いだから楽しい気分にさせて下さい。
祈る思いで上目で弥一の顔を窺った。
弥一はとても寂しげな瞳で三津を見る。
「そのぉ…ほら!今日久しぶりにこうやってお洒落して出掛けられたんです!だから楽しくしたいなぁー…って。」
引きつりそうになりながらも,必死に笑顔を作った。
だけど,弥一の自分を見る目が哀れみを含んでいるような気がする。
「やっぱり窮屈な生活をしてはるんですね…。」
「へ?」
弥一は三津ににじり寄るとしっかり両手を握った。
「私から土方様に頼んでみます。三津さんがおトキさんの所へ帰れるように!」
三津は呆気にとられてぽかんと口を開けた。
「以前言ってはりましたよね?
帰れるかは土方様次第だと。
土方様が三津さんを屯所に閉じ込めてしまってるんですね。
屯所まで送るついでに話をしてみましょう!」
「いや!そうやなくて…。」
上手く交わしたつもりが裏目に出た。
どの道土方からの拳骨は免れそうにない。
『拳骨だけで済めばいいけど…。』
料理屋を出て,三津は重い足取りで弥一の隣りを歩いた。
『弥一さん悪い人やないねんけど…。
いい人過ぎるん?素直過ぎるん?』
うーんと首を捻りながら歩いていると,
「こっちへ。」
弥一に肩を抱かれ,引き寄せられた。
不思議に思っていると前から浪士風の男が二人歩いて来た。
ぶつからない様に道の端に避けた。こちらが分かり易く端に避けたにも関わらず,男達も二人と同じ方向に足を向けた。
そして二人の前でぴたりと止まる。
「若造が女連れで豪勢だな。
さぞかし金が有り余ってんだろ?
新選組の為に資金を出してくれねぇかなぁ?」
料理屋から出て来る所から見られていたのか,ずっとつけられていたのか。
それよりも彼らが新選組と名乗った事に,弥一と三津は目を丸くして顔を見合わせた。
「新選組にあなた達みたいな隊士はいません。」
三津はキッと男達を睨んだ。
こんな奴らに新選組の評判を悪くされ,みんなの人柄を分かってもらえないのが腹立たしい。
「何だお前。」
「新選組の女中です。」
馬鹿正直に名乗ってしまった。
すると男達はうっすら笑みを浮かべて,卑しい目で三津を舐めるように見る。
「そうかそうか,資金工面の為にこいつの妾にされたんだな。
生意気だが悪くねぇな。」
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