そう言えば三津は満面の笑みを咲かす。

 

 

……単純。』

 

 

トキはそんな三津を鼻で笑った。甘味屋に頻繁にやって来るようになった新しいお客の吉田。

 

 

三日と空けずに訪れ,店先の椅子に腰を掛けていつもみたらし団子を堪能する。

 

 

「吉田さんてホンマにみたらしが好きなんですね。」

 

 

「そう見える?」

 

 

吉田は口の中の団子を飲み込んで,意味深な笑みを浮かべた。

 

 

「ちゃうの?好きでしょ?」 認識肺癌,本港頭號致命癌症殺手

 

 

そうでなければこんなにしょっちゅうやって来て同じ物を食べないでしょうと不思議そうに首を傾げた。

 

 

「じゃあそう言う事にしといて。

それより体調はどう?

暑気あたりは治ったの?」

 

 

吉田は話をすり替えるように質問で返した。

 

 

「もう!また話はぐらかす。」

 

 

おかげで吉田には謎が多い。

 

 

『まともに答えてくれないならみたらしの吉田って呼んでやろうか。』

 

 

ささやかな嫌がらせを考えていると,

 

 

「聞かなくても見れば分かるか。

元気そうだもんな。だったら一緒に散歩でもどう?

いつなら暇?」

 

 

吉田は唸り声を上げる三津の顔を覗き込んだ。

 

 

「へ?散歩?」

 

 

何の脈絡もなしでの誘いに三津の瞬きの回数が増える。

 

 

誘う相手を間違えてないかきょろきょろしていると,

 

 

「今は三津と会話してるのに他に誰誘ってると思ってるの?」

 

 

吉田は小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

 

 

「で行くの?行かないの?どっち?」

 

 

間髪入れずに問いただされ,三津は愛想笑いで頬を掻く。

 

 

『散歩ぐらいならいいか

店番しててこんなお誘い初めてやな。』

 

 

三津は少し戸惑いながらもこくりと控え目に頷いた。

 

 

「じゃあ明日の夕方迎えに来るから。」

 

 

吉田は勝手に指定すると勘定を済ませた。

そして帰り際にトキに何かを耳打ちすると,ふらりと店を後にした。

 

 

「ようやく三津も年頃の女子みたいに出掛けてくれるねんなぁ。」

 

 

吉田が去った後,トキが嬉々として三津の背中を豪快に叩いた。

 

 

「散歩に行くだけやし勘違いせんとって!」

 

 

トキは照れることは無いと目尻を下げているが,照れ隠しでも何でも無い。

 

 

「言っとくけど私は壬生狼のお兄さんも捜さなあかんから忙しいの!」

 

 

危うく忘れる所だった。

吉田との散歩より重要な事がまだあった。

 

 

『桂さん

あれから会う機会が無いけど弥一さんと決着ついたのも報告したいのに。』

 

 

三津はトキが浮かれる訳も知らずに壬生狼と桂,相反する二人の存在に頭を抱えた。三津は完全に忘れていた。

会いたいと願うもう一人の存在。

 

 

『桂さん元気かなぁ。狩られてないよね?』

 

 

ごろりと寝返りを打って窓を眺める。

 

 

弥一に素直な想いを告げる勇気をくれた桂に会って報告がしたい。

 

 

それともう一人。

自ら会いたいと捜している壬生狼。

こちらもお世話になった相手だが,桂を追い回す浪士組の一員。

 

 

二人の顔を浮かべながらもう一度寝返りを打った。

 

 

『壬生狼にお礼がしたいなんて聞いたら桂さんはきっと私を軽蔑しはるやろな。』

 

 

優しい桂から怒る姿や冷ややかな表情は想像出来なかった。

だからこそ恐いものがある。

 

 

『嫌われたくないな。』

 

 

ふとそう思った。

そんなに親しい間柄ではない。

会おうと思ってすぐ会える相手でもない。

 

 

滅多に会う事もないのだから,お礼ごときで嫌われようが軽蔑されようが関係はない。

 

 

それなのにどうしてだろう。

桂に嫌われるのが恐い。

 

 

『悩んでても仕方ない。壬生狼のお兄さんは見つけるって決めたし!』

 

 

またも挫折すれば今度こそトキは許してはくれないだろう。

 

 

ぶたれた頬の痛みを思い出すとぞっとする。

 

 

いかんいかん,これしきで悩むなんて自分らしくない。

 

 

三津は悪い考えは消えてしまえとぎゅっと目を瞑った。

 

 

『壬生狼のお兄さん見つけたらお礼,桂さんに会ったら報告ただそれだけ!』

 

 

別に難しく考える必要なんかないじゃないか。

納得のいく結論を出したところで気分がすっきりした。