「そのうち帰って来ますんでお気になさらず。」

 

 

トキはそう言いながらも吉田が見つめる先を見ていた。

 

 

「騒々しくてすんませんね。今日もみたらしですか?」

 

 

功助もちらちらと心配そうにその方角を見ながら吉田を店内へと促した。

 

 

「そうだね,みたらしを二本包んでもらえる?」

 

 

 

吉田はみたらしを手土産にして長居はせずにふらりと店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三津はべそを掻きながら足の赴くままに歩いた。肺癌初期到末期,治療方法各不相同

 

ひたすら歩いて辿り着いたのは鴨川だった。

 

 

『言われた通り頭冷やしてやる。』

 

 

いっそ飛び込んでやろうかと思ったがそこは冷静に後々の事を考えて止めた。

 

 

「もぉ。おばちゃんの阿呆!」

 

 

河原に膝を抱えて座り込み,背の高い草に紛れて泣いた。

 

 

自分の想いが伝わらなかったのが悔しい。

言葉に出来なかったのが悔しい。

 

 

「阿呆!分からず屋!」

 

 

三津は手頃な小石を拾い上げて川目掛けて投げ入れた。

 

 

すると後ろから,

 

 

「くくっ。」

 

 

と誰かが喉を鳴らして笑っている。

 

 

『私が笑われてる?』

 

 

三津が涙を拭いながら振り替えれば,男が真後ろに立って笑っていた。

 

 

「悔し泣き?」

 

 

男は平然と三津の隣に腰を下ろした。

 

 

ほっといて下さい。」

 

 

いきなり現れて馴れ馴れしいなと三津はふいっとそっぽを向いた。

 

 

「まぁまぁ。

それで壬生狼捜しはやるの?やらないの?」

 

 

「え?」

 

 

驚いて思わず振り向いてしまったではないか。

 

 

「何で止めるの?周りがうんざりする程捜してた癖に。」

 

 

にやにやしながら話かけてくる男が面白がってるだけだとは思ったが,愚痴を吐くには丁度いい相手だった。

 

 

「だって家族に何かあったら嫌やもん

私は何て言われても平気やけど。」

 

 

だけどそれはくだらないと一蹴されてしまったんだ。

 

 

「女将も三津と同じ気持ちだと思うけど。

私は何て言われても平気,だから気にせず捜しなさいなんてね。」

 

 

男は一人でくすくす笑った。

そんな男の横顔に三津は釘付けだった。

 

 

『聞きたい事が多すぎるこの人。』

 

 

まず何から指摘すればいいか分からない。

 

 

『でもこの人の言う通りかも。おばちゃんも何があってもいいって覚悟をとっくにしてたのかも。』

 

 

その上で捜索をさせてもらってたのに気づかなかった自分はとんだ阿呆じゃないか。やっぱり悔しい。

周りの言葉にまんまと踊らされてしまった。

 

 

結局一人で勝手に突っ走って,余計な心配を功助とトキに押しつけた。

 

 

二人がどんな気持ちで恩人を捜す自分を見守ってくれてたかなんて考えてなかった。

 

 

「もう自分が嫌い。」

 

 

抱えた膝に額を押し当てていると,何だか甘い匂いが鼻をくすぐる。

嗅ぎ慣れた砂糖醤油の匂い。

 

 

少しだけ顔を上げてみれば男が団子を一本,三津に差し出していた。

 

 

「泣くのって疲れるからお腹空くでしょ。まぁ食べなよ。」

 

 

そう言う男はすでに団子を頬張りながら目を細めていた。

 

 

ありがとうございます。」

 

 

少し怪しみながらも団子を口に運ぶとぽろぽろと涙が零れた。

 

 

「おばちゃんが作る味。」

 

 

紛れもなくうちの団子だ。

トキ特製のたれがかかったみたらし団子。

三津は泣きながらその味を噛み締めた。

 

 

「食べて泣いて忙しいね。

これ食べたら帰ろうよ。女将と旦那は絶対心配して店の前にいるから。」

 

 

男は自信たっぷりに言い切って三津の背中を二回叩いた。

 

 

三津は団子を頬張ったまま大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか団子一本に泣かされるなんて思わなかった。

 

 

『おふくろの味ってやつ?』

 

 

食べた瞬間トキの顔が浮かんですぐにでも会いたくなった。

 

 

素直に謝ろうって気にもなった。

 

 

そしてそんな団子を引っさげてやって来た彼は何者だ。

 

 

あたかも昔からの知り合いのように自分の左側を歩いている。

 

 

今更ですけどどちら様?」

 

 

三津は少しずつ謎の男に探りを入れようと試みた。

 

 

「道に迷う癖に何で鴨川に行ったの?何か思い入れでもある?」

 

 

見事に質問は無視されて質問返しをされてしまった。

 

 

あそこで水に流すの。」

 

 

前もそうしたから気がつけば辿り着いてただけだ。

 

 

『あれ?道に迷うのまで知ってる?』

 

 

危うく聞き流すところだった。

それに思い返せば自分の名も知ってたし三津と呼び捨てにしていたのも自然過ぎて指摘するのを忘れてた。

 

 

「誰に名前聞いたんですか?おじちゃん?おばちゃん?」

 

 

兎に角気になった事を片っ端から聞いてやると三津ももう一度質問を投げかけるが,

 

 

「水に流す?だから川か分かり易くていいね三津は。

それで今日の事はちゃんと流れたの?」

 

 

人との会話とはこんなに難しいものだっけ

話しが全く噛み合わない。