あきらめることなどできやしない。

 

 五稜郭に戻ると、副長と俊冬はまだ戻っていないという。

 

 中島たちは、伊庭ら遊撃隊の割り当ての部屋で雑魚寝をさせてもらうことになった。

 

 副長と俊冬を、いたずらに刺激させることになる。

 

 市村と田村も、そっちのほうで面倒をみてもらうことにした。

 

 市村と田村を俊冬に会わせれば、ひと悶着あるに決まっている。

 

 というわけで、t恤牌子 おれたちはまた厩で世話になる。

 

 おれたちの雰囲気を感じ取ったのか、「竹殿」や「梅ちゃん」たちお馬さんたちも落ち着かないようである。

 

「あの……、ぽち先生は?」

「大丈夫でしたでしょうか?」

 

 厩からでてきた沢と久吉が、おずおずと尋ねてきた。

になっているのがわかるんだろう。

 

「ええ、大丈夫です」

「それはよかった」

 

 おれの答えに、二人はたがいのを見合わせてほっと息を吐きだした。

 

 その心からほっとした表情を見て、ぐっとこみあげてきた。

 

「おい、主計。呑んでもいないのに、いきなり吐き気か?」

 

 蟻通が肩をつかんできた。

 

 もちろん、吐き気ではない。

 

 眼前で、沢と久吉が驚いてこちらをみている。

 

 左脚許からは、相棒が見上げている。

 

 そのとき、相棒が振り返った。

 

 だれかがやってくる。

 

「たま……

 

 安富がつぶやいた。

 

 俊冬が一人でこちらにあるいてくるではないか。

 

 せりあがってきていた得体の知れぬ塊を呑み込み、体ごと俊冬のほうを向いた。

 

「副長は?」

「栗原さんや粕屋さんが、「武蔵野楼」にいらっしゃいました」

 

 島田の問いに、俊冬はまったくちがうことをいいだした。

 

「たまたまちがう座敷に本土の商人がいましたので、その商人に蝦夷から連れだしてもらうよう依頼しました。その礼金は、副長のポケットマネー、というか懐から……

 

 この際、副長がそれだけのまとまった金をもっていたんだということは触れないでおこう。

 

 ましてや、そんな金があるんだったら、ちょっとはこっちにも融通してもらいたいもんだっていうことにも目をつむろう。

 

「それで、副長は?」

「副長?」

 

 蟻通の問いに、俊冬は「だれ、それ?」的に問い返した。

 

「ああ、そうでした。副長は、めずらしくずいぶんとお酒をすごされ、あるくのもままならず……。お姫様抱っこで運んだ上で、鍵付き窓なしの部屋で休んでもらっています」

「なんだって?」

 

 その場にいる全員が叫んだ。

 

「お姫様抱っこ?副長を?」

 

 蟻通が頓狂な声をあげた。

 

 お姫様抱っこって、俊冬はマジでやったんだ。

 

 ってか蟻通、そこじゃないよな?

 

 でも、副長激似の俊冬が、オリジナルをお姫様抱っこして夜の町をあるく姿を、脳内で思い浮かべると超絶笑える光景だよな。「ええ、お姫様抱っこです。ですが、最後の方はさすがに腕が疲れました」

「だろうな。だって、副長はめっちゃ太ったからな。ってか、またごまかされるところだった」

 

 俊冬にそういいながら、思わず前後左右を見回してしまった。

 

 副長がいつの間にかどこからかわいてでて、鉄拳制裁をかましてくるかもしれないからである。

 

「ごまかす?事実を伝えているだけじゃないか」

「たま、それがごまかしっていうんだよ。お姫様抱っこに意識を向けさせられて、もうすこしで『鍵付き窓なしの部屋で休んでもらって』ってところをスルーしてしまうところだった」

「ああ……

「ああ、じゃないだろう?なにゆえ、そんな個室タイプのネカフェみたいな部屋に放り込むんだよ」

「ネカフェって、いったことがないんだ。コミックがよみ放題で、ドリンクが呑み放題なんだよね?」

「ああ。二十四時間パックだったら、一日中漫画に集中できる……。チェーン店のネカフェだったら、挽き立てコーヒーとか朝食無料サービスってところもあるんだ。当然冷暖房完備だし、めっちゃ快適だよ。って、そこじゃないだろう?」

「きみがネカフェなんていいだすからじゃないか。おれのせいにするなよ」

 

 たしかに、いまのはおれが悪い。

 

「いまからわんこの様子をみてくるよ。その間に、副長がまた狙われるともかぎらない。実際、狙っている馬鹿がいるからね」

「なんだと?いったいだれが……

 

 島田がすごい勢いで尋ねると、俊冬は両肩をすくめた。一瞬、教えてくれないのかと思った。だが、俊冬は口をひらいた。

 

「おれたちの永遠のアイドル、今井のすっとこどっこいですよ」

「アイドル?」

「憧れ、でしょうか」

 

 島田の疑問に、俊冬がすかさず答えた。

 

「ああ、憧れね」

「島田先生、そこじゃありません」

 

 島田の好奇心旺盛な永遠の少年っぷりは、いまだ健在である。

 

 思わずツッコんでしまった。

 

「あの野郎……。土方さんを狙うなんざ、とんでもないやつだな」

「愛しのお馬さんさんたちに蹴られ、ついでに踏みつけにされればいいのだ」

 

 蟻通と安富のいう通りである。

 

 隣人を愛すべき男は、たとえ終末を迎えようがイエス・キリストが復活を遂げようが、副長だけは許せないらしい。