」は、ぽち同様たまにもつかってほしがっているにちがいありません」

 

 ベルトから「之定」を鞘ごと抜き取り、俊冬にさしだす。かれは刹那以下で躊躇したものの、すぐに笑顔になって受け取る。

 

 なんてこと。とつじょはじまる剣術試合。しかも、天然理心流宗家の近藤勇と、日本一といっても過言ではない俊冬の対戦である。

 

 相棒についてきてよかった・・・。 

 

「かっちゃん、おい、無理すんじゃねぇよ」

「歳、わかっている。子宮內膜增生 だが、これまで剣術試合で本気をだしてやりあったことなどそうおおくはない。後悔しているのだ」に悟らせねぇ。しかも、流派のことになれば、みずから告げることはねぇ。そんな連中と勝負して、いったいなんの意味があるんだ」

「歳・・・。おまえには一生わからぬであろう。剣一筋ですごしてきたわたしには、強き者、面白き相手があらわれれば、無性に戦いたくなるのだ。新八や斎藤君も同様。かれらも、負けるとわかってはいても、やりたがっていたであろう?生粋の剣術馬鹿とは、そういうものなのだ。しかし、その反面、四代目宗家として、さらには新撰組局長として、負けられぬ。醜態をさらせぬ、という矜持もある。そのくだらぬ矜持が、勝負をし、負けてしまうことを躊躇させたのだ。ゆえに、その機をみずから逃してしまったわけだ」

 

 なんとなく、わかるような気がする。局長が勝負をするということは、イコール天然理心流宗家としての面子がある。

 個人というよりかは、流派そのものが否定されることになりかねない。

 

「だが、いまはもうすべてがふっきれておる。おしむらくは、気組は迷いなく充実しておるのに、体躯が十二分ではないということであろう」

 

 そして局長は、のたかさにかかげもち、瞼をとじている。唇が動いているところをみると、俊春同様祈りかなにかを捧げているのであろうか。

 

 なにかの儀式のように。

 

 かれはしばし瞑目し、それから瞼をひらける。尻端折りする着物に、すばやく「之定」を帯びる。

 

「おまたせいたしました」

 

 こちらに向き直り、一礼する俊冬は、いつものおちゃらけた様子とまったくちがう。

 重苦しいほどの真摯さが、漂いまくっている。

 

 しれず、固唾を呑みこんでしまう。俊春と

「後悔?」

に、この戦がはじまるまえに、挑んでおけばよかった、とな」

「はあ?なにゆえ、勝負にこだわる?こいつらは敵じゃない。それに、こいつらは剣士だってことすら

 局長は、暗闇にぼーっと浮かぶ山の影へとがあう。すると、かれがそうとはわからぬほど、ちいさくため息をついたように感じられた。

 

 どういう意味なのだろう。自分がやりあえなかったことへの失望か?それとも、兄にたいしてなんらかの思いがあるのか。

 

 道からはずれ、欅のまえに移動する。野っ原がひろがっている。剣術の試合どころか、「天O一武道会」の会場になってもさしつかえなさそうである。

 いや、それはもりすぎか?

 

 ふと、欅の横に、ちいさな祠があるのに気がついた。道祖神でも祀られているのだろうか。

 

「道祖神だな」

 

 副長もまた気がついたようだ。おれの右横に立ち、そうつぶやく。反対側には俊春と相棒がやってきた。もちろん、相棒は、俊春の左横に座るのかと思いきや、おれの左横に、つまり、おれたちの間にわってはいってきて座った。

 

 んん?もしかして、おれの横のほうがいいと?やっぱり、の横のほうが落ち着くと?

 

「兼定。おぬし、意外とやきもちやきなのだな。案ずるな。わたしは、だれかさんになびくようなことはない。これでも、男の好みはうるさいのだ」

 

 ソッコー、俊春のささやき声が耳に飛び込んできた。

 

「いや、ぽち。いまの、どういう意味なんですか?」

 

 ツッコミどころ満載である。

 

「しずかにしろ、主計。真剣勝負がはじまるんだからな」

 

 そして、副長に叱られるのはおれ。を戻す。

 

 二人は、たがいの遠間の位置で向き合っている。もはや、二人の間に言葉など必要ない。

 こうして向き合っているだけで、おたがいをわかりあえる・・・。

 

 と、いいたいところであるが、すくなくともおれには、それは無理である。

 

 同時に一礼し、睨みあう局長と俊冬。

 局長の気組は、すでに満ちて充実していることがわかるが、俊冬のそれはまったく感じられない。

 

 局長は、あいかわらずすごい貫禄である。俊冬が、貧相にみえてしまう。

 

 ゆったりとした動作で、左腰の「虎徹」を鞘から解放する局長。

 

「今宵の虎徹は血に飢えている」・・・。

 

 ぜひとも、この創作上の名台詞を、局長にいってもらいたい。

 

 局長の「虎徹」は、贋物であるという。

 

 

 

 ぐすん。職場やクラスに一人はいる、注意されやすく叱られやすい