でしか、局長の騎馬の面倒をみることしか、お役に立てぬのです」 「案ずるな。おれたちも、おまえを必要としている。おまえの馬術の腕と知識でもって、会津に恩を返したいのだ」  安富は、渋々というか泣く泣くというか、とりあえずひ了承した。  いや、ぶっちゃけするしかない。  馬具の準備は双子がするという。  かれは、副長から自分自身の準備をするようにいわれ、畜舎をあとにする。  出発は、流山へ向かうおれたちと同時間帯である。  隊士が数名、同道することになる。 「才輔は、かっちゃんに惚れこんじまっててな」  避孕丸 安富が去ってからしばらくののち、副長がぽつりとつぶやく。 「いや、へんな意味じゃねぇ」  副長は、双子もおれも反応しなかったので、ムダに付け足す。 「なにより、義を重んじすぎる。のなかでは、ある意味一番まともだ。ゆえに、これからおこるであろうことを目の当たりにすりゃぁ、才輔はあとを追って腹きっちまう」  その推測は、驚愕に値する。  馬だけじゃないのか、安富?でも、そんなに好きになれるんだ。いや、好きというよりかは、信頼、尊敬しているといったほうがいいだろう。  常に馬にありったけの愛情を注いでいる安富。それとおなじだけの信頼や尊敬を局長に向けているとすれば、殉死もありえるかもしれない。  ゆえにこれまで、安富のいないところで局長の話をしていたわけか。とてもではないが、真実を、きたるべき未来を、かれに語るわけにはいかぬ。  では、それを後日、会津でしったとすれば・・・。目の当たりにするよりかはまだ、ショックはおおきくないのだろうか。  ちなみに、安富も蝦夷までゆき、生き残って終戦をむかえる。 「あいつのことまで思いいたらなくってな。本来なら、斎藤といかせれば自然だったんだろうが・・・」  それでも思いいたり、本隊からわかれて会津に向かわせることができたのである。ギリセーフだ。流山にいってからではおそすぎであろうから。 「それでだ、たま。さっきの会津の駒奉行云々の話、ありゃぁ誠なのか?」  そういえば、俊冬がそれをいったとき、副長の応答が奇妙であった。 「さあ。わたしがしるのは、会津藩には駒奉行なる役職がある程度でございます。それと馬術には、小笠原流、流、が大坪流と同様、古流とされている、とぐらいしか」  やわらかい笑みとともに、しれっと答える俊冬。 「なんてこった。おれ以上にしたたかなやつだな、ええ?」  さすがの副長も、苦笑している。 「会津も、秀でたをもつ武人は大歓迎してくれましょう。しかも会津じたい、戦の準備に、否、戦を目前にしておおわらわで、われらの申したことが嘘か誠かどころのさわぎではございません」 「たしかにな。俊冬、礼をいう。おまえの機転で、才輔は会津にゆくことになったんだしな」 「いえ。ただのごまかしでございます」  俊冬の「で、主計。才輔は?あいつは、どうなんだ?」 「安富先生も、生き残ります」 「そうか・・・」  おれの問いに、副長が心底ほっとしたのが感じられる。  自分自身のことより、安富が生き残るということに、心底ほっとしている・・・。 「ほかは?だれが死ぬ?」  その問いに、明日の準備をしはじめた双子の掌と脚がとまる。  副長がこちらへ歩をすすめ、近間に入る手前でそれをとめる。おれは、馬の蹄の跡のついた壁に背をあずけ、副長とをあわせた。  上司と話をするのに壁にもたれるなどと、社会人のマナーとして「どうよ?」ってツッコまれそうであるが、なにかの支えがほしかったのである。「これから各地で戦闘になれば、隊士たちは戦死したり行方不明になったり、敵に捕縛されたり投降したりします。それでも、おおくの隊士や途中で加わる人たちと、蝦夷に渡ることになります。それは兎も角、先ほどのご質問ですが、さきにもお話した通り、この後、江戸では彰義隊が上野で敵と渡りあい、結局、負けます。その際、なにゆえか原田先生が、靖兵隊より抜けて江戸へ戻り、その上野あたりで死ぬはずでした。そして、松本先生の伝手で、千駄ヶ谷のさる植木屋で療養していた沖田先生が、ちょうどいまから一か月ほど後に、亡くなるはずでした」