「女性関係の縺れ?」

 

 

再びぴくり、と眉が動いた。しかし今回も首を振る。

 

 

「総司、今気付いたんだけれど…。それ、土方さんの体験から言っていない?」

 

藤堂は軽く吹き出し、にやにやとしながら沖田の方を見遣った。

沖田は悪戯がバレた子供のように笑みを浮かべ、藤堂を見返す。

 

それから視線を白岩へ移した。

 

 

「それじゃあ…人を斬り殺した…とか?」

 

 

「…ッ」Botox價錢

 

白岩は息を飲む。

何とか表情には出さずには済んだが、心臓は大きく高鳴り、嫌な汗が背に吹き出た。

「…嫌やなァ。そんな訳…ありまへん。俺は生まれてから、殺生と言えば家畜…。いや…、何でも無いです」

 

白岩は息苦しさを覚える。閉じ込めていた記憶の何処かで子どもの泣き声が響く。

 

それを誤魔化すかのように菓子を口に入れるが、全く味が分からなかった。

 

それどころか甘味を食べている筈なのに、苦味すら感じる。

 

 

「俺が…勘当されたんは、父上との確執です。…すんまへん、あまり思い出しとうないことなんで、これ以上は遠慮さして頂きます」

 

 

沖田は横目で白岩を見た。

その横顔は何かに怯えているようで、瞳には深い闇を灯している。

 

どのように呼吸をしていたのか分からなくなるほど、徐々に乱れていった。

 

「そうですか…。済みませんでした、不躾なことを尋ねてしまって」

 

 

この時沖田は軽々しく白岩の過去に踏み入ったことを後悔した。

 

「…いえ、大丈夫です。沖田先生は気になさらんで下さい」

 

「白岩君、大丈夫か」

 

 

藤堂は背を丸め、過呼吸気味の白岩の肩に手を当てる。

 

それを軽く制止し、白岩はいつものように笑みを浮かべるが、僅かに引き攣っていた。

 

胃を迫り上げるものを感じて口を片手で覆う。

 

記憶を押さえ付けようとする度に、それは鮮明に蘇ってきた。

 

 

「…すんまへん。用事を思い出したので、お先に戻らせて頂きます。先生方、誘って頂いて有難う御座いました」

 

白岩は懐の財布から適当に小銭を掴み、自分の座っていた場所に置くと、そのまま走り去る。

 

 

「あッ、白岩君!…やってしまいました」

 

沖田は深い溜め息を吐き、頭を抱えた。

 

 

「阿呆じゃないの…、総司。今のは何なのさ!ずけずけと踏み込む真似なんかして。君らしく無いよ。一体何故こんなことをしたのか、理由があるのなら俺が納得出来るように説明してくれる」

 

 

藤堂は沖田を睨み付ける。

 

その迫力に圧倒されて、沖田は彼が間者ではないかと疑っていたことを告げた。

 

 

「そっか…。間者かどうか調べていたんだね」

 

「全て、私の独断なんです。誠に浅はかでした…」

 

「まあ…、訳が訳だから何とも言えないけれど…。…良かった。総司まで土方さん達みたいに変わってしまったのかと思ったよ」

 

 

その言葉にハッとした。

ほんの先程、自分で土方の変化を憂いていたところではないか。

 

それなのに自分も同じように思われていたとは洒落にもならない。息を切らし、時々人にぶつかりながらも白岩は五条河原まで辿り着いた。

 

鴨川の畔の草原に入るなり膝を付き、口元を覆って息を整える。

 

幸い、人の往来は少なく此方に気を留める者は居なかった。

 

 

「…沖田総司。奴は何者じゃ…ッ」

 

白岩は肩で息をしながら絞り出すように呟く。

奥歯を強く噛み締め、秀麗な顔を歪ませた。

 

まるで自分の領域に土足で踏み込まれたような気分であった。

 

 

暮れ始める夕日が彼を照らす。

 

 

その時、からんころんと下駄の音が近付いてきた。

 

「そこのお兄はん」

 

酒や白粉の匂いが鼻孔をくすぐる。顔を上げてみると、高価そうな着物に身を包んだ女が此方を見下していた。

 

「えッ…、嫌やわァ。めっちゃ色男やないの」

 

白岩の容姿を見た女は急に甘ったるい声になる。

 

 

「…私のことは放っておいてくれんか」

 

「何でこないなところに居らはるの」

 

言葉の通じない様子に白岩は、目障りと言わんばかりに女を睨み付けた。