「それでは試合を始めたいと思いますが、宜しいですか」

 

沖田の呼び掛けにハッとし、位置に着いた。

違和感に内心首を傾げながらも、今はこの試合に集中することにする。

 

 

「相手の身体を打つ前に止めること。両者、前に。礼!始めッ!」

 

境内に沖田の声が響き渡った。その掛け声に合わせて礼をし、試合が開始される。

 

まずは両者とも様子見をしていたが、去皺紋 やがて動いたのは馬越だった。馬越は青眼に構えると力強く地を蹴り、攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「くッ…!」

 

それを頭上で受け止めた。ギリギリと木刀同士が擦れ合う。

 

桜花は左足を引き、右膝を曲げた。

 

 

「ヤアアーッ!」

 

 

そして薙ぎ倒す勢いで力一杯押し返し、そのまま右に払う。

 

 

「な…ッ!!」

 

見掛けに似合わない程の力に、馬越は思わずよろけかけた。

 

その隙を逃すまいと桜花は上段から降り下ろす。

 

 

「嘘やろ、馬越が圧されとるで!」

 

「戦う姿も鬼気迫る美しさがある…」

 

 

松原と武田はそれぞれ異なる方向の言葉を呟いた。

 

 

馬越はそれを紙一重で躱すと態勢を立て直す間もなく、次の攻撃に備えて中段に構えた。

 

桜花の身体は考えるよりも早く動き、その攻撃は的確に馬越を追い詰めている。

 

その軽やかな動きはまるで剣舞のようであった。

 

馬越はいつの間にか桜花の手のひらで転がされるかのように、防戦一方である。

その美しい顔に焦りの色が濃くなった。

 

「凄い…!総司、どうしよう。俺も戦ってみたい」

 

「ええ…。これ程までとは思いませんでしたよ。流石だな、近藤先生の見立てに狂いは有りませんね」

 

 

藤堂は満面の笑みで、沖田は驚愕の表情でこの試合を見守っている。

桜花の攻めは基本上段からのものであったため、馬越は自然と同じ態勢で防御する形となっていた。

 

馬越は歯を食い縛り、何とかその攻撃に耐える。

木刀が降り下ろされる度、手が痺れて反撃出来なかった。

 

このままでは負けると思った馬越は、斬り終わりを狙って勝負に出ることに決める。

再び桜花が上段に構えた。それを見た馬越は足に力を入れる。

 

「ハアアッ!」

 

 

今だ、と馬越は大きく飛び退き桜花の木刀が降り下ろされた瞬間、上段から攻めた。

 

だが。その刹那、桜花は不敵に微笑む。まるで馬越の行動を待っていたかのような笑みだ。

 

そのまま降ろした木刀にグッと力を込め、馬越の木刀を担ぎ上げるようにして斬り上げる。

 

 

カァン、と音が境内に響き、馬越の持っていた木刀は弾き飛ばされた。辺りが静まり返る。

 

桜花と馬越の息遣いだけが鮮明に響いた。

 

 

馬越は一体何が起こったのかと自分の手を見詰める。その手は痺れ、小刻みに震えていた。

 

 

「そ、そこまでッ!勝者、鈴木桜花!」

 

 

沖田は慌ててそう告げる。そしてワアッと歓声が上がった。

 

 

「二人共、良い試合だったよ!見てよ、この鳥肌!」

 

藤堂は笑顔で駆け寄ってくる。

 

 

「惜しかったなァ、馬越。もう少しやったんやけどな」

 

松原の労りに馬越は首を振った。

 

「い、いえ。恐らく試合の中盤から私の負けは決まっていました。鈴木さんの思惑にいつの間にか乗せられてしまっていたようです」

 

 

そう、桜花はわざと上段攻めを頻繁に行い、馬越の思考を操っていたのである。

 

 

「桜花さん、どうぞ」

 

沖田は新しい手拭いを渡した。

 

「有難う御座います、沖田先生」

 

 

桜花はそれを受け取り、汗を拭き取る。

 

「貴方は状況判断に長けてますね。次どころか、次の次の一手を読んで動けている」

 

賞賛の言葉に照れつつも、桜花は身体の違和感が確信に変わった。

格段に速さも力も強くなっている