その時である。先程から何者かが付けていることに気付いた。

 

 

敢えて素知らぬふりをしながら、この違和感を確信に変えようと歩幅を変えずに進む。

 

一人、二人の足音が聞こえた。

桜花はこっそり袂から手鏡を取り出して背後を確認する。

 

坊主頭の男と目付きの鋭い 期指 策略 男がそこには映っていた。

 

しかも男達は一定の距離を保ちながら確実に距離を縮めてきている。随分と手慣れた様子だった。

 

桜花は急に早足で歩くと手前の辻を右に曲がり、そこで待ち伏せる。どうせ逃げられないのだから誘き寄せる作戦だ。

 

案の定男達も早足になり、桜花を追いかけるようにして辻を曲がる。

 

桜花はその瞬間を逃さずに男達の前に現れた。

 

 

「私に何か用ですか」

 

声を低くし、目を細めて言う。木刀は昨日投げてきてしまったため、刀に手をかけた。その手は僅かに震えているが、自分を強く保つために深呼吸を一つする

 

男達は驚いたように目を見開いていた。

 

まさか、尾行がばれているとは夢にも思わなかったのだろう。

 

 

「…なんや、後付けとったんの知ってたんかいな」

 

坊主頭の男はつまらなそうにそう言った。

長身かつがっしりとした体格はそこに居るだけで威圧感を放つ。

 

 

「ならば、話は早い。俺達は新撰組だ。昨日の件について屯所まで御同行願おう」

 

目付きの鋭い男は有無を言わさない口調でそう言うと桜花の腕を掴んだ。

 

「手が震えている。刀を抜くのはやめておけ。やたら命を散らす必要は無かろう」

 

そう言われ、素直に桜花は柄から手を離す。それを見た二人は頷いた。

 

「そうや、素直なのが一番やで」

 

桜花は逃げられる隙を探そうと様子を伺っていたが、坊主頭の男が桜花の顔を覗き込みニッと笑う。笑っているのに目の奥から殺気を感じた。

 

 

「兄ちゃん、兄ちゃん。逃げよォ思ても無駄やで。ワシら、こう見えても結構強いからな。背を向ければ斬り捨て御免、なんてあるかもわからんで」

 

坊主頭の男にそういわれ、歯噛みする。折角吉田さんが身を挺して逃がしてくれたのに、捕まってしまうなんて彼の好意を無にしてしまったと目を瞑った。

 

「分かりました。一緒に行きますから腕を掴まないで下さい」

 

 

「そうそう。ワシかてそうやたらに人様斬りたないからな。大人しゅうしててや」

 

坊主頭の男は不敵な笑みを浮かべると桜花の横に並んで歩き出した。

 

 

さして歩くこともなく、新撰組の拠点である壬生の屯所に着く。

【松平肥後守御預 新選組宿】という表札が堂々と長屋門の柱に打ち付けてあった。

 

中に誘導されるがまま入ってみると、あの浅黄色の羽織を着た隊士が数名居る。

 

 

「あれ、松原さんに斎藤さんだ。今日は非番でしたよね。どうかしたのですか。凄く怖い顔してますよ。特に斎藤さん」

 

その中から一人、この殺伐とした空気に似つかわしい若い隊士が話しかけてきた。人懐こい印象である。

 

 

「放っておけ。俺は元々こういう顔だ」

 

斎藤と呼ばれた目付きの鋭い男は拗ねたように横を向いた。

 

 

「非番やったんやけどな、昨日の逃げた男。偶然見付けてしもたから、急いで齋藤はん呼んで捕まえてきたんや」

 

松原と呼ばれた坊主頭の男は桜花の方を見た。

 

「へえ、この人が昨日の手練れなんですか。想像していた人と少し違うなァ。もう少し、厳めしい男かと」

 

くすくすと男は楽しそうに笑う。

 

「せやな、人は見掛けによらんちゅうことや。そういやあ沖田はん。副長は何処に居るん」

 

松原にそう聞かれ、沖田という男は前川邸と呼ばれる長屋の中を指差した。

 

「確か部屋に居ると思いますけれど。良かったですね、そこの君。副長は今機嫌が良いんですよ」

 

 

沖田はそう言うとにっこり笑う。

 

「そうか。すまんな、沖田はん。ワシはちと行ってくるわ。ほら入りィ」

 

松原に促されるままに、桜花は草履を脱いで長屋の中へと入っていく。