の灯し方といった基本的な生活用具の使い方などを教え込んだ。
自身の置かれた状況を今ひとつ把握しきれていない桜花は、まるで体験学習のようだと呑気に思いながら覚えていく。その甲斐あってか、大体の勝手は分かるようになっていた。
ある日、ふと床の間に飾られている太刀が目に入る。のそれは魅入られるような禍々しさを感じさせた。これは本物だろうか、と思いつつ好奇心に抗えず、惹き付けられるようにそれへ手を伸ばす。
柄に触れた途端、まるで全身を電流が駆け巡ったかのような鋭い感覚に目を見開いた。fue植髮
『死にたくない、まだやり残したことが……』
呻き声のようなものが頭に響く。この世のものとは思えないそれにぞくりと背筋は凍り、肌が粟立った。
「いやっ、」
思わず手にしたそれを畳の上へ落としてしまう。その音を聞き付けたのか、藤がやってきた。
「桜花、どうしたの。……刀に触れたのかい?」
「ご、ごめんなさ……、気になってしまって。触った途端に変な声が聞こえたんです」
藤は太刀を拾い上げると、震える桜花の前へ座る。
「変な声……?」
だが藤が触れても何も起こらなかった。悪い夢でも見たのかと思いつつ、手のひらを見詰める。
「夢、そうだ……。あの声は夢でも出てきたことがあった……。嫌、折角忘れていたのに」
まるで身体の芯から暴くようなその声には覚えがあった。幼い頃から繰り返し見てきた、両親から見捨てられる切っ掛けとなったあの夢の声である。
小さな声で恐怖に その夜、高杉は縁側に座りながら雪見酒をしていた。試合以来、何となく高杉への抵抗が消えた桜花はその横で言われるがまま酌をしている。
何か思うことがあるのだろうか、高杉は酒だけをひたすら煽り、無言で空を眺めていた。
「……もう疲れたのう。このまま何処かへ逃げてしまおうか。それともここで死ぬのもええかも知れんのう」
この明るさだけが取り柄のような男から、気弱な発言が聞かれたことに桜花は目を丸くする。
「何もかもままならん。このまま京へ向かったとて、何が変わるんじゃろうか。それならいっそのこと、」
一気に酒を飲み干すと、空になった盃を桜花へ向けた。早く次をつげと言いたいのだろう。だが、桜花は銚子を傾けずに、ただ高杉の横顔を見詰めた。
「……何があったか知りませんが、それで良いんですか」
高杉は赤ら顔ながらも、炯々とした鋭い眼光を桜花へ向ける。いつでもその腰の刀で人を斬り殺せるような酷薄さすら感じ、無意識のうちに桜花は身震いした。だが、毅然とした表情を崩さない。
「何……?君は 翌日。高杉の発言通りに小春日和となった。突然の出立に藤は驚いていたが、直ぐに了承する。
着物に慣れていない桜花は何度も裾を踏んでしまうため、歩きやすい男物の着物と袴で移動することになった。
「私の息子が着ていたものだから、少し大きいかね。丈は繕ったのだけれど」
所謂、形見の着物である。肩幅や丈が桜花には大きかったため、その場で藤が修正した。
元々着ていた物は風呂敷に包む。その時、ポケットからころんと何かが出て来た。それは朱地に金糸で"御守り"と書かれた古めかしい小さな袋であり、桜花は目を細めると懐へ入れる。
「ほう、よう似合うのう。男じゃと言われても違和感無いっちゃ」
柿渋色の着物、縦縞模様の袴に身を包み、髪は紐で後ろに一つに束ねられた。そして脇差という太刀より短い刀と、薄緑を左腰に差す。元々付けていたブラジャーは切られていたため、晒しを巻いた。
何処からどう見ても"武士"のような装いに、桜花は困惑した。このような格好をすれば逆に目立つのではないかと何度も言ったが、これが良いと藤も高杉も引かない。無論、折れたのは桜花だった。
「ああ、本当に……本当によく似ている」
藤は目尻に涙を浮かべながら桜花を見る。
「一度、一度だけでいい。母上、と呼んではくれないか」
そのように請われると、桜花は困惑しながら近くにいる高杉を見た。すると高杉は小さく頷く。
「あ、あの……。その、は、
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