今の、冬乃の台詞は。暗に沖田へ告白してきている、としか受け取りようがあるまい。    もう言われなくても貴女の気持ちなら分かっていると、返してやりたくなる。だが、  すでに先刻結論づけたように、冬乃と安易に想いを通じ合わせていいはずも無い。      大体、冬乃は今、酒に酔っているから口を滑らせただけに違いなく。    (聞き流すしか・・ないよな)      これからずっと、こうして冬乃の気持ちを知らないふりをしていくことになるのかと。沖田はげんなりしつつ、  強く訴える様子で己を見つめてくる無邪気に残酷な冬乃から、目を逸らした。    そう、  己に芽生えているこの恋情もろとも、頭髮變幼 直視せぬようにしていく他無いのだと。      本当に一体、彼女は何を考え、どこまで認識しているのか謎になる。    ひとつ解るのは。    好きになってはいけない相手に、    互いに恋をしたと、いうことだ。    沖田は膳に猪口を置いた。  「冬乃さん、」    いったん逸らしていた視線を冬乃へ据え直す。    「だいぶ酒が回ってるようだし、そろそろ帰ろうか」  沖田がそう言うなり冬乃の返答を待たず、あっという間に、帰り支度を始め、  冬乃はぽかんとそんな彼を見つめた。 何故また急に、沖田が話題を変えて帰ろうと言い出したのか、常以上に不思議な沖田の言動を冬乃が吟味する時間もなく、そのまま彼は立ち上がった。    見上げた冬乃を「立てる?」と、その優しいままの眼で見下ろしてきて。  只どこかその、優しいだけではない眼の奥の色に。冬乃は不安になって、    また、何か言ってしまったのではないかと、思い巡らせ。  そしてそれは、すぐに答えを出した。      呑みに来るなら貴方とだけ    そういう台詞を、冬乃が最後に口にしていた事で。    (ばか、なんてせりふ言ったの・・!)    沖田はどう受け取ったのだろう、彼のこの反応を見れば、良い結果ではなかったことは明らかで。  冬乃はもう泣きたくなって、見下ろしてくる沖田から慌てて俯き、顔を隠しながら立ち上がった。  勢いがよすぎた。瞬間、頭の上から一気に血が降りてゆく感がして、目の前が星だらけになり、    よろけたところを沖田の片腕に抱きとめられ。  まだ眩暈がしているなか、冬乃は沖田の太い腕につかまりながら、顔を上げられずに。  「ごめんなさい・・」  小さく呟けば、沖田の笑いが落ちてきた。    「立てるだけ、学んだってことだね」    立ち上がることすら出来なかった島原の時と対比しているのだろう。  偉い。とそのまま戯れに褒めてくれる沖田に、 もう冬乃は何も継ぎ返せないまま、会釈をしてそっと身を離した。    冬乃が一人で立っていられることを確認した沖田が、そして背を返し襖へ向かっていくのを、冬乃は見上げて。諦念の内に追った。        店先に呼んでもらった籠で二挺、連れ立って屯所へと帰ってきた後、  「ご馳走様でした」ともう一度深々と礼をして別れてから、冬乃は深い溜息をついた。      いつまでたっても。好きな男のまえでは、どう振舞えばいいのか全然わからないでいる。  惨めな気分にさえ、なって。    今一度、冬乃は盛大な溜息をつき、がっくりと肩を落とした。    それまで休みがちだった穴埋めに、連日それこそ朝から晩まで働き通し、  さすがに疲れが出てきた、ある日の夜に冬乃は、  巡察なのか隣に沖田がいない夕餉の席で、ぽつんと食事をしながら危うく泣きそうになった。    沖田とは、あれから食事時などに顔を合わせても、挨拶や少しの世間噺ばかりで、  どこか互いによそよそしい態度になっていることを感じないわけにいかなかった。  冬乃のほうは気まずいからなのだが、沖田のほうまで何故か同じ様子で、完全に表面的な浅いつきあいの態度でくることに、  静かながら確実に冬乃の胸内は蝕まれていて。      (やっぱりあの台詞を言ったせいなのかな・・)    冬乃の、沖田への気持ちがあの時、伝わってしまったのかもしれず。