南方にいた間は女性に接する機会など無かったが、今回王宮に入ってみると一騒動であった。色男金と力は無かりけりなどと云う言葉があるが、地位は国王である。権勢、財力並ぶ者無し、おまけに甘いマスクで年端もいかないと来た日には、女共の騒ぐ騒ぐ事。侍女に収まらず、貴族の娘共までその寵を受けんものと押し寄せて来たのであった。今まで、あまり女性と接する機会こそ無かったが、どうやらその道は嫌いで無かったらしい。取っ替え引っ替え若さに任せ、夜ごと日ごとの肉弾戦。漁色もいいところ・・・と言うのは、口さがない下々の見た印象であった。何割かのスケベ心ある民草にとっては、あやかりたいやら、蚊帳吊りたいやら、幼兒劍橋英語課程 腹立てたいやらで、尾ヒレハヒレも付きまくったのであろう。実際はそこまでの事は無かったらしい。が、少なからず、女出入りはあった。品行方正の聖人君子では無かったのである。ま、お若いのだ。ハシカのようなもの、その内飽きられるであろう、とステルポイジャンはモスカに対するほどの不快感は抱かず、好意的に見ていた。(いずれは国王の努めを思い興されるであろう。)一人になった執務室でステルポイジャンはそんな事を考えながら、テッフネールという男を待っていた。ステルポイジャンめ、あの態度は何じゃ。国母であるわらわを何と心得ておるのじゃ。」大将軍の執務室を辞し、廊下を少し歩くと、モスカは小声でガストランタに漏らした。不快げに顔を歪めている。ガストランタはモスカの少し後ろを寄り添うように歩いていたが、ハッと顔色を変え、「太后殿下、ここはまだ王宮、滅多な事を言ってはなりません。とは云え、大将軍の敬意一つ見せぬあの振る舞い、お気持ちはお察しいたします。」と窘(たしな)めた。「そうであったの。そうじゃ、今宵はわらわの臥所(ふしど)に参るが良い。今後の事をじっくり話そうぞ。」モスカは例のケバケバしい扇子で口元を隠しながら囁いた。 二人が王宮の出口に差し掛かった時、初老の男が入って来た。髪はザンバラに肩口を越し、陰欝な目をしている。衣服は洗いざらしの白い上下で、ややそぼろになっている。腰にはハンベエやガストランタと同じ種類の片刃の剣、つまり日本刀に似た剣を一振り帯びていた。男はモスカ達を見掛けると、脇に寄り、片膝ついて道を空けた。見掛けない顔だ、と思いながらガストランタはモスカを守るようにして外に出た。その男とすれ違って数歩、突然ガストランタは背中にゾワッと冷たい痛撃を一筋感じて、腰の刀に手を掛けて振り返った。振り返った先には、その男が薄ら笑いを浮かべて立っていた。ほう、少しはできるようじゃな、とでも言うように、その男は片頬を歪ませて歯を見せた後、無言のまま背を向けて歩み去って行った。(間違い有るまい。こいつがテッフネールだ。)ガストランタは全身びっしょりと冷たい汗を流しながら思った。背中に痛撃を感じたが、斬られたわけでは無かった。初老の男の放った殺気に感応してしまったのである。「いかが致した。」と訝るモスカに、「いえ、何も。」とガストランタは、辛うじて平静を取り戻して答えた。その男、真っ直ぐにステルポイジャンの部屋に向かい、軽く扉をノックするとそのまま中に入った。「ステルポイジャン将軍、お久しゅうござる。お招きにより参上致した。」「おおう、テッフネール。待っておったぞ。」ガストランタが直感した通り、この初老の男が、剣の腕なら右に出る者無しとステルポイジャンの言った、テッフネールであった。「まこと久しいのお、十年になるか。先ずは座れ。」
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