イシキンは一歩入って気をつけの姿勢をとった。「了解。」ハンベエは一言答えると、執務室を足速に出て司令部の外に向かった。司令部正面に騎馬兵三百、辺りに威風を放って整列していた。羽根飾りの付いた兜を被っているのが、彼等の大将らしい。この風俗は・・・アルハインド族か。)ハンベエの頭をいやーな予感が掠めた。羽根飾りの男を見ると、何処かで見た事が有るような気がしてならない。「ハンベエー、注文通り三百騎だよお。」金融科技意気揚々とロキが走り寄って来た。ロキに続くように、ヘルデンもやって来る。「ご苦労だった。」ハンベエはヘルデンに労いの言葉を掛けた。ヘルデンはニヤッと笑って敬礼だ。「あれー、オイラには労いの言葉は無いのお。あの騎馬兵達を見つけたのはオイラなんだよお。」ロキが不満顔で頬を膨らませる。ハンベエはロキの肩を掴み、膝を落として、相手の顔の前まで己の顔を降ろし、「居ないんで、色々不便したぜ。相談したい事が有るから、執務室へ行っていてくれ。・・・いや、その前に王女を見舞ってやってくれ。」と柔らかな口調で言った。「王女様、具合が悪いの?」「いや、至って元気なはずだが、ロキが居ないと淋しいだろうと思ってな。」「言われなくても、ご機嫌伺いに飛んでくよお。」ロキは司令部の入口へと駆けて行った。ハンベエの正面方向から、騎馬傭兵の頭と思われる羽根飾りの人物がツカツカと歩み寄っていた。 羽根飾りの男は、真一文字にハンベエを目指して歩み寄って来る。そして、腰に帯びている両刃の長剣を抜き放つと、ハンベエ目掛けていきなり切り付けて来た。「死ねっ。」剣をかざした男の口から吐き出されたのは、憎悪のこもった短い一言であった。ハンベエは一歩下がって、剣を躱した。出し抜けの一撃にあわやと思われたが、少しも慌てた様子は無い。「ちっ」男は刃を翻して、逆方向に切り返した。ハンベエは更に一歩下がって躱した。「うおっ。」火のような息を吐いて、剣を旋回させ、男は今度は頭上から切り下げて来た。ハンベエは半身に躱して男の内懐に踏み込んだ。入り身という技らしい。そうして、羽根飾りの兜の下に隙間見える男の額に右手でデコピンを食らわした。ごっついハンベエの中指が相手の額に弾け、バッチィィィっと痛ましい音が発っせられた。その音の凄い事凄い事、少し離れた場所で見ていたヘルデンが、大将危うし!と剣の柄に掛けた手を離し、自分が喰らったかのように顔をしかめ、思わず両の握り拳で半開きの口を覆ってしまったほどだ。一瞬、目が眩んだようによろめいた羽根飾りの男であるが、横殴りに大きく剣を薙いだ。ハンベエは軽く後ろに跳んで間合いの外に躱す。以下、羽根飾りの男斬り付ける、ハンベエ躱して踏み込む、バッチィィィ、男切り払う、ハンベエ跳び下がる、という繰り返しが何十度となく続き、とうとう羽根飾りの男は疲れと苦痛から尻餅を突いてしまった。ハンベエは刀に手も掛けていない。ハンベエを守ろうと身構えていたヘルデンもハンベエがあまりにも余裕だったので手を出しかねて見守ってしまっていた。「殺せっ、殺せえ、馬鹿にしおってから。」ハンベエに一太刀浴びせるどころか、赤子扱いの上、斬られもせず、デコピン喰らう事数十発、痛みと口惜しさのあまり、涙まで流している。
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