あの時、ロキがドアを開けてその男を見た時、実は同じ部屋にボーンも居合わせたのだった。ボーンは瞬時に気配を消して、男の死角に潜んだ。さすがにサイレント・キッチンの腕利きとして鳴らしているボーンである。陰形の術はお手のものだった。そうとも知らないモルフィネスの手下は、ロキを気絶させ、さあ担いで行くかと腰を屈めたところをボーンに不意打ちされ、気絶させられてしまったのだった。こういう時は、当て身と言って、みぞおちに拳を叩き込んで気を失わせるのが、割と時代劇等で目にする場面なのだが、試管嬰兒過程それを忘れていたのか、それとも最初から知らなかったのか、背後から男のこめかみに回し蹴りを叩き込んでいた。一発蹴り込んで、もう一発と反対側の足を上げようとした時には、当たりどころが良かったと見えて、男は昏倒していた。それから、ロキに活を入れて、男の方は手足をふん縛って床に転がしておいたわけである。ボーンの蹴りが相当利いているものと見え、そのモルフィネスの手下は意識を取り戻す気振りさえ無い。ハンベエはボーンを見てちょっと首を傾げていたが、やがて、くっくっくっと、体をひきつらせるようにして笑った。「そう言えば、ボーンはそういう奴だったな。ふふっ・・・いやいや、良くぞ居てくれた。」そうなのである。ゲッソリナにいた頃も、ハンベエとロキが王宮に出かけていた間、ロキの借りていた部屋を我が物のように使っていたボーンは、今回もロキの部屋を根城にして探索を行っていたのだ。そして、モルフィネスは、そんな事とは予想だにせず、手下に、不用意にも一人でロキを攫いに来させてしまった、という事になるのである。神ならぬ身であれば、後になれば随分間抜けな行動、とはままある事ではある。「ボーンさんの活躍かっこ良かったんだよお。ハンベエにも見せたかったよお。そいつなんかまるっきり歯が立たなかったんだから。」とロキは、いかにも楽しそうに言った。「いや、ロキは気絶していて、見てないから。」ボーンは苦笑混じりに言った。「あはは、そうだったよお。」相変わらずの少年ロキであった。ハンベエは顔を緩めたが、ボーンの立ち回りを見られなかったのは、ちょっと残念な気がした。最初出会った時から、ボーンが相当腕の立つ奴だという事は肌で感じているハンベエであるが、ボーンが闘うところは見ていない。ついさっきまでは、ロキの身を案じて、慌てふためいていたハンベエであったが、ようやく、心が静まってきたようである。「アルハインド族との戦争やら、色々騒がしい事になっているようだな。良かったら、何がどうなっているのか聞かせてもらえるかい。」とボーンは、相変わらずニヤニヤしながら言った。「だな。座るか。」ハンベエはそう言うと、テーブルのところへ行って椅子に座った。他の二人も椅子を取って来て座り、三人は車座になって向き合った。それから、ハンベエはアルハインド襲来から、さっきのモルフィネスとの会見に至るまでを可能な限り正確に話した。ただし、イザベラに出会った一件だけは伏せておいた。さすがにロキに対してならともかく、ボーンにイザベラの話はまずかろうと思ったわけである。勿論、ボーンがサイレント・キッチンの人間だからであるが、その一方でイザベラの件を知らせない事で、ボーンの負担を減らしてやったつもりでもあった。全くもって身勝手な言い分であるが、ハンベエとしては、(これでも俺は、ボーンの身を気遣ってやってるんだぜ。)という具合に考えたのだった。「バンケルク将軍がそんな酷い指示をしたのお。・・・信じられないよお。・・・オイラ、将軍に騙されてたのかなあ。」ハンベエの話が終わると、ロキが元気のない顔で言った。最初、バンケルクにに目をかけられ、バンケルクを憂国の士、立派な人物であると信じ、王女エレナへの手紙を届ける役目を果たしたロキとしては、ハンベエの処遇の一件はともかく、今回の対アルハインド戦におけるバンケルクの第5連隊の扱いようは余程ショックなようであった。「王女に剣を教えてる頃は、清廉な人物として知られていたんだが・・・あの御仁、人が変わったみたいだな。」ボーンがボソリと言った。昔のバンケルクを知っているのか?」とハンベエがボーンの言葉を聞き咎めて言った。「直接知りはしないが、今回の調査に当たって、バンケルクの人となりの、そこそこの情報は仕入れて来ている。「バンケルクって奴は、王女の剣の師らしいが、一体王女とはどんな関係なんだ。