2024年08月
激しい白兵戦を繰り広げるも
「この先、何があろうとも
「この先、何があろうとも、私を勘八君のお側に居させて下さいませ」
興味深げに聞いていた信長の口元が、思わずだらしなく開く。
「……そんなことで良いのか?」
「はい。それを叶えて頂けたならば、私にとってこの上なき喜びに存じます」
信長の口から、溜め息混じりの小さな笑い声が漏れた。
「半永久的になどと申す故、どのような大それた望みを言うのかと思えば、そのようなこと…」
「まぁ、“そのようなこと” などではございませぬ」眼霜推薦2024|25款平價+專櫃抗老保濕眼霜測試!去黑眼圈淡紋
坂氏は軽く声を張ると、信長に遺憾そうな眼差しを向けた。
「母にとって何より辛きことは、腹を痛めて産んだ我が子と離ればなれになることにございます。
勘八君は、殿という貴人の御子として産まれた以上、いずれは織田家の為、戦や政(まつりごと)の為に、駒として使われる日が参りましょう。
さすれば、母と子がいつまでも共に、という訳にもいきますまい。 …だからこそ、あえてかようにお願いしているのでございます」
「──」
「過保護と思われるやも知れませぬが、私にとって勘八君は何にも代え難き宝。
せめて側におわし、その成長を見守り続けたいのでございます」
「………左様か」
坂氏の母としての思いを聞き、信長はふと、虚ろな表情になった。
実母からの愛を知らずに育った信長にとって、子を思う坂氏の言葉は、正直 耳が痛かった。
それを羨ましく思う気持ちと、妬ましく思う気持ち。
双方が交差して、何ともやり切れない思いが心の奥底で汚泥のように広がっていた。
しかし己がその愛情を受けられなかった分、せめて我が子には──という父としての思いもあり、その心情は実に複雑であった。
「殿、如何なされました? やはり、ご無理な願いを申しましたでしょうか?」
「……」
「お許し下さいませ。やはり私ごときが殿にねだり事など、身に過ぎた振る舞いにございました」
坂氏が平身抵頭すると、信長もようやく我に返って
「…いや、良いのだ……。 相分かった。そなたの思うように致せ」
と静かに言葉を返した。
坂氏も「えっ」となって鎌首をもたげる。
「よろしいのですか?」
「ああ…。儂は勘八に、どこまで父親らしいことをしてやれるか分からぬからな。
そなたが儂の分まで、この子に愛情を注いでやってくれ。寂しい思いをさせぬように」
信長は慈愛のこもった眼差しを勘八に注ぎながら、目の前のその小さな頭を愛しげに撫でた。
坂氏は感動に胸を震わせながら「有り難うございます──」と慇懃に礼を述べると、
その顔に晴れやかな笑みを湛えながら、下げたばかりの頭を今一度深々と垂れた。
この後 勘八は、その名を『三七郎』と改め、故あって伊勢の神戸下総守具盛(とももり)の養子に入ることになるのだが、
この折の約束通り、坂氏もそれに随行することが許可され、その後の城移りに際しても必ず付き従って、
我が子の成長を誰よりも近くで見守り続けてゆくことになるのである。
「──殿!殿はおわしまするかっ!」
「 ? 」
ふいに何処からか自分を呼ぶ声が聞こえ、信長はそれに素早く反応すると
「勘八を頼む」
坂氏の腕に子を預け、早々と縁側から離れると、
声の主がやって来るのを待ち構えるように、庭の中央に立ち竦んだ。
やがて、切羽詰まったような表情の丹羽長秀が荒々しく駆けて来て
「…ああ、殿!こちらにお出ででしたか!」
言うが早いか、速やかに信長の足元に控えた。
「何じゃ、長秀であったか。如何致した?かような所まで」
「お畏れながら申し上げます!殿におかれましては、早急に清洲の城へお戻り下さいますようにとの、ご重臣の方々からのお達しにございます!」
「…何と。いったい何事じゃ?」
「そ、それが───」
二人にはない素朴さと
二人にはない素朴さと、母性的な暖かさが魅力の女性である。
信長は、きゃっきゃっとはしゃぐ勘八を抱えながら縁側に戻ると
「…して、そなたはいつまでこの屋敷にいるつもりなのだ?」
縁に腰をかけつつ、坂氏に訊ねた。
「いつまでとは?」
「この屋敷を産所として勘八を産んでからもう三年になろう。如何に良勝がそちの叔父とは申せ、長居のし過ぎじゃ。
そろそろ生家の方へ居を移した方が良いのではないか?」
信長の勧めに坂氏は微笑みながら一礼を垂れると
「お気遣い、有り難う存じます。 ──なれど私はこちらでの暮らしが気に入っております故、暫くは離れるつもりはございませぬ。
叔父上も勘八君の誕生を喜んで下さり、いつまでも居てくれて構わぬと、左様に申しておりますので」
その心配は無用であると、きっぱり断った。
「しかしのう…」
「生家はここよりも手狭で、何より古うございます故、とてもではありませぬが殿の大切な勘八君をお育てするような場所ではございませぬ。
…それにここにおわせば、野駆けの折などに時々 殿が訪ねて下さいましょう? 私も勘八君もそれが嬉しく、なかなかに離れ難いのです」
「可愛いことを申しおる」保濕精華推薦2024 | 編輯實測8款好用保濕精華 冠軍清爽快吸收
信長は口の端を緩やかにつり上げると
「相分かった。ならば無理に生家に戻れとは言わぬが、もしも必要とあらば、
そなたと勘八の為に、この近くに屋敷を普請してやっても構わぬぞ。
何なら、いっそのこと清洲城の奥へ参るか? さすれば勘八ともそなたとも毎日会えるではないか」
信長の発案に、坂氏は慌ててかぶりを振ると
「め…、滅相もないことにございます」
と鄭重に辞退した。
「坂家は豪族というても、我が父は一族の中では立場も低く、日々の生活も倹(つま)しいものにございました。
そんな身分低き私に、殿は情けをかけて下さり、同時に勘八君という宝をも与えて下さりました。
私には、もうそれだけで十分……。清洲の奥向きに居を移すなど、あまりにも恐れ多いことにございます」
「左様な遠慮など不要じゃ」
「いえ。これは遠慮ではなく、けじめにございまする。──それに、私のような賎しい者が奥に参れば、ご正室であられるお濃の方様のお目障りになるかと」
坂氏の言葉を聞いた途端、信長は軽く吹き出すような、思い出し笑いをした。
「そなた、吉乃と同じことを申すのう」
「きつの……、生駒殿のことにございますか?」
「ああ。 頼むからそちは、お濃に城へ招かれて登城致したり、二人で怪しげな文のやり取りなど致すでないぞ。
妻たちが人知れず親密になってゆく様を見るのは、男からすれば、気が気でないと申すか…、決して気分の良いものではないからのう」
「失礼ながら、殿。それはいったい何のお話しにございましょう?」
坂氏が思わず眉をひそめると
「──いいや、何でもない。ただの愚痴じゃ、気に致すな」
信長は微笑(わら)ってかぶりを振った。
「では、代わりに何か、そなたの望みを一つ叶えてやることに致そう」
「…望みでございますか?」
「久方ぶりに参ったのじゃ、思うところを申してみよ。遠慮がちなそなたにも、小さな望みの一つや二つあろう?」
「いえ、これといった望みは──…」
坂氏は一瞬、その気遣いすらも辞退しようとしたが
「……なれど、甘えたことを申してもよろしいのならば、半永久的に叶えて頂きたい願いがございます」
その場に手をつかえ、ひた向きな面差しを信長に向けた。
「半永久的にか…。なかなかに興をそそる申し出じゃ。 言うてみよ、どのような願いじゃ?」
信長が発言を許すと、彼の膝の上にいる我が子を見つめながら、坂氏は嫣然(えんぜん)と微笑んだ。