2024年04月

「いい男と働いとったんか。そりゃ毎日充実やな。」 赤禰がにんまり笑うと入江は不機嫌さ満載の笑みで対抗した。さらに赤禰の煽りに伊藤が乗っかった。 「しかも一之助君の雰囲気は新ちゃんに似とるんやって。帰り際に熱い抱擁見せられたそっちゃ。」 「伊藤さん黙って。」 余計な事言うんじゃないよと睨みをきかせたが時既に遅し。 「へぇ。あの一之助君が抱擁したん?やるなぁ。女子嫌いの一之助君にそんなんさせた三津は悪女やな。」 三津は悪女は心外やわと不貞腐れてそっぽを向いた。 「木戸さんには何倍にもして言い返したのに入江さんには言い返さないんですね。」 伊藤は喉を鳴らして笑った。そうやって拗ねる顔がいつもの三津らしくていい。植髮 「九一さんには別に恨みとかないですもん。」 「やっぱ恨んどるん?」 赤禰もこれは桂の自業自得だからそれでも仕方ないなと半笑いで言った。 「恨みは言い過ぎました。不満です。でもその不満もようやく何とも思わなくなってたのに勝手な事されてんで押し殺したもんが,ぶわぁー!って出てきたって言うか……。」 「それだけ無理して我慢しちょったって事やろ。これからは我慢せんと普段から言いたい事言ったらいいそ。木戸さんも言っても通じん時はあるかもしれんが言わんよりマシや。」 高杉の言葉に三津は素直に頷いた。 「それでどんな文句ぶち撒けたん?」 三津の口からどれだけ辛辣な言葉が出たのか気になる。高杉と山縣は目を輝かせながら身を乗り出した。 「思い出したらまた腹立つから言いたくないんですけど……。妻になるなら一番好きな時になりたかったとは言いました。 後は初めて妻になったのも私やないし,先に小五郎さんの子を身篭ったのも私やないのもずっと心の中で引っかかってたから……怒りに任せて言っちゃいました。」 三津はヘヘっと笑って見せたけど,また泣きたくなった。 「おう。言え言え!言ってもう全部吐き出したなって思えたら,そこでやっと木戸さんと向き合えると思う。一旦全部空っぽにし。」 高杉はにっと笑って三津の頭を鷲掴みにした。 「三津さんの言葉がきつかろうがそれで構わん。 だって三津さんは木戸さんを貶めようとして言っとるんやない。やけぇ出る限りいくらでも言えばいいそ。俺らも聞くし,木戸さん本人もそれを聞いたら反省する。じゃけぇ三津さんは思ってる事言っていいそっちゃ。」 「ホンマにこう言う時だけまともな事言いますね。」 高杉はたまにだからいいんだろと笑い,頭を鷲掴みにしたまま額が引っ付くほど顔を寄せた。「三津さん,これからも木戸さんと九一を頼むわ。」 「言われなくても逃げられへんとこまで来ちゃいましたからねぇ。頼まれなくとも何とかするしかないでしょう。それより近い,離れて。」 三津はかかる息が酒臭いと高杉の胸をぐいぐい押した。自分もだいぶ呑んでるからきっと酒臭い。高杉に嗅がれるのはちょっとどころか凄く嫌だ。 「高杉君その辺にしといて。三津さんはまだ荷解きもしなくちゃいけないの。そろそろお開きにして部屋に返してあげて。」 「あ?白石さんおったん?」 「居たよ!?ずっと居たよ!?」 高杉の無礼に言い返す白石を見て,三津は戻って来たなぁと実感した。 「三津,荷解き手伝うけぇ部屋に行こうか。」 「じゃあここ片付けてから。」 三津は入江にちょっと待ってねと言って使い終えた器を片付け始めた。 「ここは俺と伊藤で片付けるけぇ部屋戻り。」 赤禰が三津から食器を取り上げた。入江はそう言う事だからとにこにこ笑って三津の肩に手を回した。それから広間を出る間際に赤禰に向かって“ありがとう”と口だけ動かした。 それを見た伊藤は赤禰を一瞥してからなるほどと顎を擦った。 「武人さんは入江さんの肩持つんですね。」 「んー?そりゃあ同情するわな。あの入江が俺らの前で泣いて悔しいって言うぐらいなんやけぇ。」

入江は予想していた返しと全く別の物が返って来て硬直してしまった。 「九一さん?」 三津は目を見開いたまんまの入江の顔を覗き混んだ。三津の顔が近付いたから仰け反ってぷいっと顔を反らした。 「そっ……そんな軽い気持ちで抱くわけないやろが。」 「そうですよね。九一さん冗談言いながらもちゃんと約束守ってくれてますもんね。」 ふふっと笑って三津は歩き出した。 『たまに心臓に悪いことしてきよる……。』 主導権は握ってるはずなのに不意に押し倒された気分になる。攻められたいと言いながら本当に攻められるとあわあわする。それから二人は川辺で休憩を取ったりしながらさくさくと山道を抜けてこの日の目標地点を少し通り越した宿場に到着した。 「三津さん凄いな。予定より進んでるしこれなら明日からもう少しゆっくりでも大丈夫や。」 そう言って褒めれば三津は嬉しそうに笑うが間違いなく脚に疲れは溜まっている。 宿に入り荷物を下ろしてから座り込んだままだ。 「今日はゆっくり湯に浸かり。」 三津は素直に頷いてお先にと湯浴みに出た。植髮 それから入江はごろんと畳の上で大の字になった。 「あー。一緒に浸かるかって冗談言うの忘れたー。」 自分も疲れてるなと鼻で笑って三津が戻るのを待った。 今日の職務から解放された桂は寄宿してる桶屋宅には戻らず阿弥陀寺に戻った。 三津達の相部屋を覗いてまだ帰ってないと溜息をついてしょんぼりとまた縁側で晩酌を始めた。 「ご一緒していいですか?」 「今日は赤禰君か。いいよ。」 赤禰は会釈をして桂の左隣に腰を下ろした。やっぱり赤禰は真面目だなと桂はうっすら笑みを浮かべた。自分に敬意を払う奴はここ最近居ないに等しい。 「昨日は晋作に慰められたよ。いや,貶されたのか?」 桂は悲しげに笑みを浮かべたまま手元の酒に目を落とした。 「三津さんとはどういった経緯で出逢われたんですか?」 「私と三津かい?あーそれはねぇ三津が私の手当をして追手から匿ってくれたのが出逢いだね。」 あの時の事は今でもたまに思い出すよと目尻を下げた。 「三津さんのどこに惚れたんです?」 「どこ?んーどこだ……。気付いたら気になっていて会いたいと願えば町でばったり会えたりしたんだ。それから彼女の事ばかり考えるようになってて……。会いたいと思えばいつも巡り会えていたから年甲斐にもなくこれが運命かと思うようになってたよ。」 酒のせいなのかこれが本当の姿なのか桂は緩みきった顔で惚気け始めた。 「そんな大事な相手何で泣かすんです。」 「本当に……。私はいつでも守りたいし笑顔にしたいのに間が悪いと言うか何というか……想いが通じてからは不甲斐ない事ばかりなんだ……。」 みんなに問い詰められた土方の一件にしろ高熱を出して苦しんでいた事にしろ,悉く何も出来ない自分に嫌気が差した。 「嫌われても仕方ないぐらい私は三津に酷い事しかしてないと思う。それでも三津は私と想いが通じただけでも幸せと……。」 桂は言葉に詰まった。三津がくれる言葉に甘えていた。傍を離れないと高を括って驕っていた。桂は深い溜息をついて俯いた。 「我々はまだ三津さんの事をよく知らんので。いい子やと言うのは分かりますけど。 だからお二人がどんな付き合い方をしとるのか全く見えんのです。」 「そうだね……。三津は今まで見てきた女子とは全く別の生き物みたいで……。 欲はないし媚も売らない。良く言えば控えめで悪く言えば無頓着。自分自身にも無頓着だしある意味私にも無頓着だ。 全然やきもちも妬かないし私に他の女の影がちらつくと嫉妬するどころかあっさり身を退くんだ。 そんな三津を私が追いかけてる状態で……。」 赤禰はなるほどなと納得した。伊藤が山縣の発言に激昂した背景がなんとなく分かった。 「三津は私を困らせる事は一切しないんだ。聞き分けが良くて物分りも良くて,常に私の為と尽くしてく

三津は目を丸くしてにんまり笑う入江を見た。 「稔麿と玄瑞と過したそこへ行ってみん?いい気分転換になると思うんやけど。」 「行き……たい……萩……。」 「それがいい,ここの事は私に任せちょき!落ち着くまで存分に入江さんと出掛けておいで。娘が傷心なんは見ちょられんけぇ……。」 セツが三津を抱きしめてよしよしと頭を撫でた。【雄性禿】破解關於雄性禿脫髮的7大迷思 @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 :: 「じゃあ三津さん今すぐ稔麿と必要な物……京からここへ来る時ぐらいの荷物作って門の前におり。」 三津はこくこく頷いて準備をしに相部屋に戻った。 入江は話し合いをしていた部屋に戻り白石だけを呼び出した。 「白石さん三津さんと急須買いに行くけぇ旅費貸して。」 「何で急須買うのに旅費なの……。」 「傷心の三津さん放っておけんやろ?」 三津の為と言われたら仕方あるまい。 「どれくらい必要?」 「んー萩まで往復。」 「は!?」 大声を出しかけた白石の口を入江は素早く押さえた。「静かに。桂さんには内密に。これぐらいしないと反省しませんからあの人。」 桂への仕置は三津との接触を断ち切る事だ。もしこれで幾松に流れるようならそれまでの男だ。 「それに萩へ連れてくのは稔麿との約束なんで。」 「そうかい……。分かった今から用意するから三津さんと一緒に家まで来てくれる?」 入江は恩に着ますと深く頭を下げて白石と共に,公開処刑をされみんなに質問攻めに合う桂のいる部屋から離れた。 入江も必要最低限の荷物を持ち阿弥陀寺の門の前に行くと,吉田を背負って小さな荷物を抱えた三津が待っていた。 「お待たせ行こうか。」 「白石さんも?」 「行きに白石さんのお宅に少し寄るそ。」 三津は分かりましたと入江と白石の後ろについて歩いた。 「三津さん大丈夫?」 大丈夫な訳ないだろうしあまり話は振られたくないだろうけど今の白石が三津にかけられる言葉なんてこんなもんだ。 「何でしょう……。何がなんだかよく分からへん状態です……。」 「これは一応伝えておくね?あの話の娘さんが孕んだ桂君の子は流れたそうだよ。それで気が狂って幾松さんに刃物を振り回したらしい。 どうやら幾松さんを三津さんと勘違いしたらしくて。」 「え?その人私の事知ってたんですか?」 「うん,それで桂君が自分に振り向かないのは三津さんがいるせいだと。言えば八つ当たりだね。 桂君はねずっと三津さんに文を書き続けてたんだけど,どうもその娘さんが送ったと見せかけて処分してたみたいなんだ。」 「そう……ですか……。」 三津は抱えていた荷物をさらにきゅっと力を込めて抱いた。 『桂さんも相変わらず詰めが甘い。好意を寄せる相手に想い人がいると分かればどうするかくらい読めただろうに。脅してまで抱いてくれとせがむ女やぞ。』 入江は声を大にして言いたかったが傷心の三津の手前それは止めた。 白石邸についてすぐに用は済ますからと三津を玄関に待たせて白石と入江だけ中に入った。 「三津さん連れてだと時間がかかるだろうね。」 「でしょうね。歩き旅には慣れてないので。でも今の三津さんには桂さんとの距離と考える時間が必要なんで。」 「今回は食べちゃうの?」 「さぁ?三津さんにその気がなければ私は何もしません。」 「そう。でも今日の修羅場を見て伊藤君が三津さんの嫁ぎ先を探してくれと言ってた理由も分かったよ。」 「桂さんは三津さん泣かす天才ですからね。」気を付けてと心配そうな目の白石に見送られ二人は萩に向かった。 「出て来たのはいいけど思いつきやけぇ今日は早めに宿に入る。そこで予定立てて萩に行こう。」 「ふふっこんなん初めてやからワクワクします。」 「笑えるやん。」 まだ覇気はないが弱々しくも楽しそうに綻んだ目元に入江も目を細めた。

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