2024年01月

無事に味噌を譲って貰い台所まで帰って来ると,隊士は一仕事終えたような清々しい顔で立ち去った。

 

 

この日から三津の災難が始まった。

子供達に誘われて壬生寺に遊びに行こうとした時も,

 

 

「三津さんどちらへ?」

 

 

「壬生寺へ。」

 

 

ではお供しますと必ず誰かがついて来る。

じっと見張られるものだから遊びに身が入らない。gaapiacct.pixnet.net

 

 

別に遠出をする訳でもないのに誰かがずっとついて来る。

遂には屯所内に居るだけでも,お一人ですか?と聞かれるんだ。

 

 

「もぉ嫌やぁ!」

 

 

三津は部屋の隅で膝を抱えて顔を埋めた。

 

 

「で,何で俺の部屋に来た?」

 

 

「そんな冷たい事言わんとってよ,旦那様ぁー。」

 

 

『都合のいい旦那だな俺は。』

 

 

ごろりと寝転んだまま斎藤は大きな欠伸をした。

 

 

「沖田はどうした。あいつの所に行けばいいだろ。それに不満があるなら副長に直訴して来い。」

 

 

「今沖田さんと土方さんは生憎出掛けてます。」

 

 

だからここに来たんだいと頬を膨らませた。

ここは気軽に入れて,尚且つあまり人が寄り付かない部屋だから。三津は大きな溜め息をついて斎藤の横にごろんと寝転がった。

 

 

「何してんだ。」

 

 

人の部屋に勝手に転がり込んで寛ぐ女は初めてだと毒づいた。

 

 

「今日は斎藤さんと一緒に居るって決めたんです。

いいでしょ?旦那様。」

 

 

寝転んだ状態で向き合って,愛嬌のある笑顔を見せられたら,

 

 

今日だけだぞ。」

 

 

貴重な一人の時間だが,それでもいいかと思ってしまう。

三津はやった!と畳の上で転がった。

 

 

「こんな所に居やがったか!」

 

 

突然障子が開かれて大股で土方が踏み込んできた。

 

 

「あれ!?出掛けはったんじゃ!?

 

 

「あぁ出掛けたさ。だが予定が狂ってな。

お前を呼んでも来ないと思えば。」

 

 

驚きながらも斎藤から離れる素振りを見せない三津の帯を掴んで引き寄せた。

 

 

「予定が狂った。」

 

 

流石に副長の前で寝そべってる訳にもいかず,斎藤がむくっと起き上がる。

 

 

『予定を狂わせたのはどうせ沖田だろうな

と言うか,どう見ても逢い引きしてるようにしか見えてないだろうな

面倒な事になったな。』

 

 

何と言おうか,男なら言い訳せず謝るべきか?

 

 

『いや,謝ったら逢い引きを認めると言う事であって。』

 

 

斎藤が首を捻っていると,三津の方が先に口を開いた。

 

 

「ちょっと土方さん!隊士の皆さんに何て言わはったんですか?

ずっと付きまとわれるんですけど!護衛って町に出る時だけでいいでしょ?」

 

 

「俺はそのつもりで言ったんだがな。」

 

 

さては三津と居たいが為に都合のいいように解釈しやがったな。

軽く舌打ちをして眉根を寄せた。

 

 

「一人でいたら一人ですか?って追っかけられるし!」

 

 

三津はいい迷惑だと口を尖らせた。

不貞腐れた顔と睨み合って,土方はふと思い付く。

 

 

「じゃあ一人にならないようにお前がずっと離れなきゃいいだろうが。」

 

 

『言ってくれるな。即ち俺の傍にいろか。』

 

 

すっかり蚊帳の外にされてしまったなと気配を消して二人を眺めていると,三津があぁ!と声を上げた。

 

 

「じゃあやっぱり今日は斎藤さんと居ます!」

 

 

にっこり笑顔を向けられた斎藤はあんぐりと口を開け,土方の額には青筋が浮かぶ。

 

 

「他の隊士にも改めて説明しておいてやる。行くぞ。

斎藤,非番の所悪かったな。」

 

 

不機嫌な声だけ残して,障子がぴしゃりと閉められた。「今日はもう出掛けないんですか?急ぎの用事じゃ?」

 

 

「日を改める。」

 

 

確かに火急の用でもない。

ただ気になって仕方がなくて,職務に身が入らない。集中力を欠くんだ。

 

 

三津の背中に見たあの傷が脳裏に焼き付いて離れない。

どう言う経緯で,あぁなったのか。

詳しく真実が知りたかった。

 

 

気になりだしたら徹底的に追及したくなる性分。

だから功助とトキに事情を聞きに行くつもりだった。

三津は首を横に振った。 軽蔑もしない。嫌いにもならない。 ただ驚くしか出来なかった。自分は弥一を知ろうともしなかった。 だから今は黙って弥一の言葉に耳を傾けた。 「良かった。 それで…どうしても知りたかったんです。三津さんがどんな人を好きになったのか。 おトキさんに聞いてしまいました。新平さんの事。」 三津の瞳が揺れた。 それを見て弥一は申し訳なさそうに眉尻を下げた。 「あ…えっと…。参ったなぁ。」 愛想笑いで誤魔化して,小首を傾げた。 それ以上言葉は続かなかった。 そこまで自分を知りたいと思っている事には驚きしかない。 それよりも,弥一の気持ちを無碍にしていた事が,何よりも胸を締め付けた。笑って誤魔化すのが悪い癖。 嫌な事,都合の悪い事は幾度となくはぐらかして来た。 今だって気まずさから息苦しくて逃げ出したい。 だから弥一から目を反らす。 『どうしよ…。』 確かに今でも新平が好き。 でも今は心を通わせる相手がいる。 正直に他に好きな人がいますと言おう。そう思ったが, 【改善脫髮】針對脫髮原因 選對脫髮改善方法! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 :: 『待って…それはそれでまた根ほり葉ほり聞かれて,桂さんを探されたりしたら桂さんに迷惑が…。』 何ならわざと幻滅されるような事をして嫌われてみようか? 『あー…アカンアカン! 土方さんに粗そうのないようにって言われてるんやった。』 そんな事をしたら,間違いなく土方の耳に入るだろうし,彼の事だからただじゃ済まされないと思う。 怒り狂う様が嫌でも頭の中を支配して全身から血の気が引く。身の毛もよだつ。 「あの弥一さん…。せっかくだから楽しい話をしませんか?」 お願いだから楽しい気分にさせて下さい。 祈る思いで上目で弥一の顔を窺った。 弥一はとても寂しげな瞳で三津を見る。 「そのぉ…ほら!今日久しぶりにこうやってお洒落して出掛けられたんです!だから楽しくしたいなぁー…って。」 引きつりそうになりながらも,必死に笑顔を作った。 だけど,弥一の自分を見る目が哀れみを含んでいるような気がする。 「やっぱり窮屈な生活をしてはるんですね…。」 「へ?」 弥一は三津ににじり寄るとしっかり両手を握った。 「私から土方様に頼んでみます。三津さんがおトキさんの所へ帰れるように!」 三津は呆気にとられてぽかんと口を開けた。 「以前言ってはりましたよね? 帰れるかは土方様次第だと。 土方様が三津さんを屯所に閉じ込めてしまってるんですね。 屯所まで送るついでに話をしてみましょう!」 「いや!そうやなくて…。」 上手く交わしたつもりが裏目に出た。 どの道土方からの拳骨は免れそうにない。 『拳骨だけで済めばいいけど…。』 料理屋を出て,三津は重い足取りで弥一の隣りを歩いた。 『弥一さん悪い人やないねんけど…。 いい人過ぎるん?素直過ぎるん?』 うーんと首を捻りながら歩いていると, 「こっちへ。」 弥一に肩を抱かれ,引き寄せられた。 不思議に思っていると前から浪士風の男が二人歩いて来た。 ぶつからない様に道の端に避けた。こちらが分かり易く端に避けたにも関わらず,男達も二人と同じ方向に足を向けた。 そして二人の前でぴたりと止まる。 「若造が女連れで豪勢だな。 さぞかし金が有り余ってんだろ? 新選組の為に資金を出してくれねぇかなぁ?」 料理屋から出て来る所から見られていたのか,ずっとつけられていたのか。 それよりも彼らが新選組と名乗った事に,弥一と三津は目を丸くして顔を見合わせた。 「新選組にあなた達みたいな隊士はいません。」 三津はキッと男達を睨んだ。 こんな奴らに新選組の評判を悪くされ,みんなの人柄を分かってもらえないのが腹立たしい。 「何だお前。」 「新選組の女中です。」 馬鹿正直に名乗ってしまった。 すると男達はうっすら笑みを浮かべて,卑しい目で三津を舐めるように見る。 「そうかそうか,資金工面の為にこいつの妾にされたんだな。 生意気だが悪くねぇな。」

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