正義感と悔しさだけでは人を裁くことは出来ないと斎藤の目は語っていた。組織に属する以上、目上の者を糾弾することの難しさを痛感する。
「それに……、規律に触れたのは事実だからな。武田さんの策にしてやられたとしても、無実とはなるまい」
「そんな……」
その瞬間、廊下へと続く襖が開け放たれた。そこには山野と馬越が立っている。
「どういう事ですか、忠さんの死に武田先生が関わっているというのは」
震える拳を固めながら、山野は室内に入ってきた。二人が現れたことに桜司郎は驚きの色を隠せない。だが、gaapiacct.pixnet.net 斎藤は顔色一つ変えずに淡々とした表情を浮かべていた。
「……あくまで憶測の範疇を超えぬ。ただ、もしそれがであれば、奴は自分の手を直接汚すことはしないだろう。協力者が隊内に居るはずだ」
浪士の死の間際で、"きつね顔の男"が首謀者であることを聞き取っていたが、それを敢えて隠す。もし武田を糾弾したところで、処分される可能性が低いからだ。近藤からの信頼もあり、同時に組長を二人失うのは隊に揺らぎが出てしまう。そして不正確なことで裁くのは、不穏に繋がりやすい。
「その者を特定することが出来れば話しは変わってくるだろうが……。事情を伏せて探し当てるのは困難を極めると予測される」
「なら、俺が──」
前のめりに発言する山野へ、斎藤は鋭い視線を向けた。それだけで人を殺せそうな冷たさに、山野は息を飲む。
「止めておけ。手に負える奴ではない。無駄死にしたいのなら止めぬが。……俺が何故あんた達も此処に呼んだか分かるか?放っておいたら、何を仕出かすか分からぬ故、釘を刺しておこうと思ったのだ」
その言葉に山野は俯いた。事実として、松原が死んだと聞いた時は飛び上がるほど驚き、沖田に止められなければ屯所を飛び出すところだった。そして斎藤に呼ばれ、部屋の前で聞こえてくる話を聞きながら、武田を斬りたいという気持ちでいっぱいになっていた。
「で、でもッ。忠さんが浮かばれませんよ!あんなに優しい人が……どうして……ッ!」
先程から黙りこくっていた馬越がぽろぽろと涙を流しながら、声を上げる。女みたいな容姿だと陰口を叩かれていた時に、一番初めに庇ってくれたのは松原だった。
斎藤はそれを見ながら、視線を心許なく揺れる行灯の火へ向ける。
「……いつ何があるか分からぬ時代だ。直ぐに仇が討てぬとも、れは天罰が下る時が来るだろう」
一瞬の油断が命取りになる世の中だ。武田のように利己的で功名心にはやる人間は、必ず何かをやらかすだろう。その時に堂々と斬ってやればいい。ただ、その為にこの純粋な後輩達の身を危険に晒す必要はないと考えていた。
「それは今では無い、ということだ」
ぴしゃりと言われ、三人は押し黙るしか無い。だがそれは不満ゆえのものではなく、斎藤の不器用な物言いの中に優しさを感じた為だ。 その後、泊まって来いとだけ言い残すと斎藤は本願寺へと帰っていく。
室内は暫く静寂に包まれたが、やがて山野が三人分の布団を敷いた。馬越に手を引かれ、桜司郎は窮屈そうに敷かれたそれの真ん中に入る。
だが、誰も寝付けないようで天井の木目を見詰めていた。
「……桜司郎。あの、さ」
「何?」
「忠さん……どんな最期だった?」
すん、と鼻を啜ると桜司郎は遠い目をする。山野と馬越の視線が左右から集まった。
「……ご立派、だった。私もまだよく分かってないけれど、きっとあの