野村あらためジョンが、ノリが悪いとばかりにあおってきた。
って、なんで『受け』なんだよ?ってかそれってば、名前でも二つ名でもないし。
「So bad」
気分がいいわけがない。
「ホワイ?」
「いいかげんにしてくれ。植髮香港 ふざけている場合じゃないんだ」
「だから、なぜ?なぁ、なぜだ?なぜなぜなぜ?」は、いつから保育園になったんだ?
三歳児がおおすぎる。
「鉄におれの気持ちが伝わらないんだよ」
「な、なんだって?」
野村あらためジョンのやつ、いくら外国人、ってか異国人かぶれしているからって、驚き方がおおげさすぎる。
「おまえ、大丈夫か?」
「なにが?まぁ、ある意味大丈夫じゃないけど」
「いくらなんでも、鉄はまだ餓鬼だぞ。その餓鬼に懸想するなどとは……。おまえはオールマイティーなんだな」
「はああああああ?おま……、なにトンチンカンなこといっているんだよ。そっち系なわけがないだろう?」
やはり、話がややこしくなってきた。
いや、すでになっている。
ダメだ。話ができる以前にまったく通じないのである。
相手にするだけ時間のムダだ。
軍服の胸ポケットからマイ懐中時計を取りだした。
称名寺をでてから、すでに三十分は経過している。
相棒を、遠方のドッグランに連れていっているわけではない。
もう間もなく、朝餉もはじまるだろう。
タイムアウトだ。
「鉄、もういいよ。後ほど、あらためてぽちたま先生から話をしてもらうから。そろそろもどろう」
なんの成果もなかった。
がっくりしながら、かれらに背を向けた。
「主計さんっ!」
市村にするどく呼ばれ、『まったくもう。なんだよ?』って思いながら体ごと向きなおろうとした。
その瞬間、なにかがぶつかってきた。
「いやだよ。一人にしないで。どこにもいきたくない。において。いい子にするから。ちゃんと熱くて濃いお茶をいれるから、から放りださないで」
市村である。
かれは、おれの肩に顎をのせ、泣きじゃくっている。
そうか。ちゃんと理解していたんだ。かれなりに動揺を隠し、明るく振るまおうとしていたんだ。
ってかやっぱ背、抜かされているじゃないか?
フツー、抱きついてきたら胸のなかで泣きじゃくるよな?
それが、おれの肩に顎をのせてる?
これが俊春だったら、頭の上に顎をのせて泣きじゃくるんだろうな。
そんな個人的なショックは兎も角、とりあえずかれに腕をまわして抱きしめかけた。
慎重にならなければ、野村あらためジョンの大馬鹿野郎に、おれが世紀の変態野郎ってな勢いで、あることないことデマを拡散されてしまう。
そうなれば、BL的黒歴史だけでなく、性犯罪者的黒歴史まで刻まねばならなくなる。
野村あらためジョンにを向けると、案の定ニヤニヤ笑いながらこちらをみている。
田村はその隣でもらい泣きしているし、相棒はすました狼面でこちらをみている。 こういうシチュエーションでは、市村を抱きしめてやって『よしよし』するのが、正しい対処方法のはずだ。
だが、それはセクハラにあたる場合がある。
野村あらためジョンは、高確率でそれをセクハラ認定するだろう。
いや、そんななまやさしいものではないかもしれない。
少年性愛者認定する。
それでなくとも、認定をしかけている。
野村なら、千パーセントの確率でする。
ならば、どうすればいい?
なんらかのリアクションをおこさなければ、市村は自分が見捨てられると判断してしまうかもしれない。
そんなことはさせてはならない。
だったら、どうしろっていうのだ?
たとえおれが性犯罪者呼ばわりされることになっても、市村をギュッと力いっぱい抱きしめ、「そんなことはないよ」といってささやくべきだ。
そう。そうすべきだ。
唾を吞み込んでしまった。緊張する。
なにゆえ、ハグをするのにこんなに勇気が必要なのだ?覚悟をしなければならないのだ?
しかも、宙ぶらりんになっている両腕がめっちゃつかれてきている。
そして、ついに市村を抱きしめようと腕を動かしはじめた。
が、その瞬間市村がすっと離れてしまった。唐突に、である。かれはそのまま両膝をおると、いつの間にかちかづいてきていた相棒をぎゅぎゅぎゅーっと抱きしめた。
「やっぱり、主計さんより兼定だよね」
そして、かれは衝撃的な一言をのたまった。
「兼定と離れたくないよ。いっしょにいたいよ」
相棒は市村にむぎゅーっと抱きしめられつつ、こちらを下から目線でみている。
その勝ち誇った感満載の狼面を目の当たりにし、敗北感がぱねぇ。
だが、クールな大人のおれは、そんなことをおくびにもださない。さらには、器のでかいおれは、笑顔で神対応しなければならない。
「鉄、気持ちはよくわかった。できるだけそうならないよう、ぽちたま先生と話をしてみるから。それと、このことは副長には内緒だぞ。もしも、副長がこのことでなにかいってきたら、はじめてきいたふりをするんだ。銀、おまえもだ」
念をおしておかなければならない。
「うん。わかったよ、主計さん。鉄っちゃん、ぽちたま先生がいるんだ。きっといっしょにいられるよ」
田村はシャツの袖で涙をぬぐうと、こちらに駆けてきつついった。
はいはい。ぽちたま先生がうまくやってくれるさ。
大人なおれは、そんなことはちーっとも思わない。
そのかわり、さらに笑顔を満面に浮かべた。
「主計。おまえ、