で副長をみつめている。
「おそれながら、いりませぬ」
そのとき、俊春がかっこかわいいにさわやかすぎるほどの笑みを浮かべて返答した。
ソッコーで、しかもきっぱりした返答だったのが草すぎる。
いまの副長のきき方だと、俊春が「いります」とでも答えようものなら、「だったら、このおれ様が胸を貸してやろう」っていう、神をも仏をも畏れぬことをいいだしたにきまっている。
よむまでもない。
ゆえに、gaapiacct.pixnet.net/ 俊春はそれをぴしゃりと封じたのである。
さすがの副長も、一瞬、呆気にとられた。
副長が自分自身で「かよわい」認定した俊春が、まさかこんな形で歯向かってくるとは想像もしていなかったにちがいない。
さきほどの俊春の回答は、副長にとってまさしく想像の斜め上をいくであった。
「わたしの剣技など、副長のと比ぶべくもございません。ゆえに、剣技の披露じたいを遠慮させていただきます」
俊春、めっちゃナイス!神対応すぎる。
ってか、草すぎる。
副長の苦虫を潰したようなをみるのは、最高の気分、いやいや、超絶気持ちがいい。
「遠慮するんじゃねぇよ。「狂い犬」と二つ名をもつおまえが、天然理心流の目録程度を怖れるっていうのか?」
「くくくっ、それもお情けの目録……」
思わず、口のなかでつぶやきつつ笑ってしまった。
「やかましいよ、主計っ!」
刹那、宿中に響き渡るような大声で叱られてしまった。
「だって、そうでしょう?」
口の外にこそださなかったものの、失礼なことを思ってしまったっていうことじたい失礼なのに、それを申し訳なく思うどころか「それがなにか?」的にひらきなおってしまった。
だって、事実なんだから仕方がない。
副長の目録は、近藤局長の養父であり、天然理心流三代目宗家の近藤周斎先生が、副長にヤル気を起こさせるために与えた、いわば餌だったのである。
とはいえ、その思惑ははずれまくってしまったのであるが。
周斎先生も、副長がここまでチートだとはさすがによめなかったようだ。
「まぁまぁ副長。なにも副長みずから剣を握る必要はありますまい」
気配り上手の島田が副長をなだめはじめた。
それをききながら、会津の人々に、副長のチートさ加減をみせつけるだけでなく、せっかく貸してくれる道場を汚しまくるのも、迷惑千万だよなってかんがえてしまう。
どうせ、改良版の胡椒爆弾をつかうつもりであろう。あるいは、油をぶっかけるか。そこに火を放つってのも、副長ならあるあるだ。
放火って、しかもを燃やすのって、古今東西重罪である。
副長なら、「それがおれだ。おれがルールだ」っていって、躊躇うことなく生き物であろうとそうでなかろうとフツーに燃やし尽くすにちがいない。
「主計、おまえっ!おれをなんだと思ってやがる」
って、また怒鳴り散らされた。
副長の方が、よほどヒステリックだよ。
「副長、どうか落ち着いてください。島田先生のおっしゃるとおりでございます。もしも剣技をおみせすることになれば、相手はわたしみずから選ばさせていただきます。それでよろしいでしょうか?」
俊春は、またしても神対応でかわす。
「お、おう。期待しているぞ、ぽち」
存外、素直な副長。イケメンに満足げな笑みが浮かんでいる。
高確率で、今夜はチートなを練りまくり、そのための準備に余念がないはず。
そんなこんなで、会津にきて二日目の夜がふけていった。
翌朝、はやく目が覚めた。とはいえ、夜は明けている。
マイ懐中時計は、午前六時前を指している。 ひさしぶりにランニングがしたくなった。しかし、この時代、好き好んでランニングをする人はいない。
当然のことではあるが、健康のために運動をしようなんていう習慣がないからである。
駆けまくるといえば、飛脚のような職業をしている者や、逃げるあるいは追いかける者くらいであろうか。
軍服のシャツとズボン姿でランニングなどしていたら、それこそイタイやつ認定されてしまう。
「之定」をつかむと、そっと部屋からでた。
同室の子どもらや野村は、まだ夢のなかである。
廊下で宿から借りている着物から軍服に着替え、一階に降りてみた。
宿のスタッフは、おれたちの朝食の準備におわれているようだ。
おれたちが出陣するまで、おれたちだけのために食事や洗濯、掃除をしなければならないのである。
そういえば、一泊一人当たりいくらなんだろう?
宿泊費は、会津藩が払ってくれているのであろうか。
藩の緊急事態である。もしかすると、無償ってことも充分あり得る話かもしれない。
だとすれば、ボランティアである。
だったら、めっちゃ申し訳ない。
とはいえ、おれ個人ではなにもお礼ができない。
そんなことをかんがえながら宿の裏庭にまわると、相棒がいない。
どうせ俊春とオールでもしているんだろう。
結局、かれは宿のなかにいなかった。もしかすると、気配を消して屋根裏にでも潜んでいたのかもしれない。しかし、この季節である。屋根裏なんかより、外ですごしたほうがよほどマシなはずである。
そうだ。昨日いった丘にいってみよう。
そこで素振りをするんだ。ほんの千回?うーん、百回?