は、草が夜露に濡れているのをみてとる。
いよいよ、一本勝負。
めっちゃ緊張してしまう。それは、局長も副長も相棒も同様で、みなの緊張が伝わり、よけいに緊張してしまう。
俊冬は、俊春の右を襲うだろうか。俊春のみえぬを狙って。俊春は、それをみこしているだろうか。裏の裏をかくということもあるし、裏の裏の裏をかくということもあるだろう。
10カウントにちかい。そのとき、朱古力瘤 俊春が笑みを浮かべた。不敵な、というよりかは余裕があるからこそ、愉しいって感じの笑みである。ほぼ同時に、俊冬のにも、同様の笑みが浮かぶ。
前回の日野での兄弟対決では、俊冬が激おこぷんぷん丸状態であった。俊春が、右がみえていないことを隠し、俊冬だけでなくみなをごまかしていた。俊冬はそれに怒り心頭し、ブチ切れたのである。
ゆえに、その勝負に笑みなど一つもなかった。まさしく、死闘といえるような勢いであった。
その対決で、俊春は、俊冬の愛刀「関の孫六」によって右の掌を刺し貫かれた。
その傷は、いまだにくっきりと残っている。時間が経てば、うすくちいさくはなるだろうが、まったく跡形もなく消えることはないだろう。
あのときの一戦にくらべれば、今夜の二人は愉しそうである。みていて緊張はするものの、ワクワクもしている。
それは、局長や副長も同様であろう。そして、相棒も。
刹那という言葉が、これほどしっくりくることはないだろう。それこそ、瞼をとじる、あるいはひらけるまでに、すべてがおわっていた。
二本の銀色の軌跡が、眼前をはしったような気がした。
あいかわらず、で追うことすらできぬとは、成長がない。情けないかぎりである。
かれらは、居合抜きし、納刀して残心に入っている。
それから、同時にそれぞれの得物を鞘ごと腰から抜き、感謝の念をつぶやく。
俊冬はおれに「之定」をさしだし、俊春は局長に「虎徹」をさしだす。
俊冬から「之定」を受け取りながら、勝負がどうなったのかをきいてみた。
「すまぬな、主計。「之定」の力をだしきることができなかった。ひとえに、わたしの力不足」
俊冬は、苦笑しつつ顎を上げてみせる。
喉仏のすぐ上あたりに、赤い筋がはしっている。それこそ、気合いをいれてをこらしてみないとわからぬほどのものである。
俊春は、さして誇るわけでもなく、局長に「虎徹」を返している。
勝負は、俊春の勝利におわった。
ぜひとも歴史に残してもらいたいほどの名勝負である。
それは、しっかり脳裏とに、しっかり焼き付け、刻み込まれている。
「誠に怪我は大丈夫なのか、かっちゃん?あんたは昔っから、体躯の不調を隠したがるだからな」
「歳、おまえに申されたくはないな。案ずるな。法眼の治療と、ぽちたまの世話のおかげで、あれだけ動かしても痛みはない。それどころか、あれだけ動かせたことに、自身、驚きを禁じ得ない。ぽち、たま。あらためて礼を申す」
まえをあるいていた局長のあゆみがとまり、うしろを向くと双子に頭をさげる。
双子は、食事療法、リハビリ、マッサージを、局長におこなっていたらしい。
そういえば、俊冬が「局長が怪我のことを気にしている」といっていた。リハビリの際に、局長がそういったことを漏らしたのかもしれない。
「松本先生の治療もでしょうが、ひとえに、局長の忍耐と努力の賜物でございます。われらなど、お側についていたにすぎませぬ」
俊冬は、ムカつくほど如才なく応じる。
たしかに、そのとおりかもしれない。だが、そのようにもっていったのが双子である。
「かっちゃん。くどいようだが・・・」
それまでだまっていた副長も、うしろを振り向き、たまりかねたように口をひらける。
おれもであるが、局長がいまの勝負で、前途に希望や気力をみいだしたのではないかと、かんがえたにちがいない。
いいや、ちがう。みいだしてくれたと、信じたいはず。
「歳・・・。誠にくどいな」
局長は怪我をしているほうの腕をあげ、副長の頭をごしごしなでる。そのごついには、苦笑が浮かんでいる。
「歳。それから、ぽちとたま、兼定・・・」
局長は、呼びかけながらそれぞれと