2023年06月

「いやいや、かようなおおげさなものではない。「御用改めでござる」だと?かようなこと大声で申してみよ、急襲にならぬではないか」 「近藤さんのいうとおり。総司が喀血?口からでるのでも、血とゲロではおおちがいだ。総司のやつ、そのまえにヤバそうな豆腐を喰っちまってな。それを、敵と斬り結んでる間にぶちまけやがった。敵は、ゲロまみれ。ある意味、気の毒だった。まさか、新撰組一の剣士と誉れ高い総司から、「三段突き」でなく、ゲロを喰らうなんざありえんだろう。それに、平助だって、べつに斬り結んでてってわけじゃない。ましてや、刀でやられたんでもな。ちっちゃいくせに、いっちょまえに階段を一段飛ばしで駆け上がろうとし、脚が段に届かなくてすってんころりん。手すりに頭ぶつけて額をばっくり」 肺癌第三期 なにこれ?つぶやいたらソッコー炎上する系の話じゃないか? 「しっかし、面白おかしく伝わるもんだな」  原田が、くくくと笑いながらいう。 「あのとき、われわれは、「四国屋」に躍り込んだが、それらしき連中は一人もおらず、しばし、酒をすごしてから、「池田屋」にむかった」 「そうそう、土方さんなんぞ、無駄にかっこつけてな。さっそうと躍り込んだんだぞ。でっ、はずれ。笑っちまったよ」 「うっせぇ、左之。まぁそれ以前に、あのクソったれのだんだら羽織を着てるってところが、すでに恥ずべきってやつだ」 「歳、それは、どういう意味だ?」 「おおっと、すまねぇ、かっちゃん。あんたの発案はクソ、否、あんたの感覚は、独創的だからな」 「おまえの句よりかは、ましだと思うぞ、歳」  しりたくない。夢を、妄想を、壊さないでほしい。「それで、おまえがいた は、どうなるんだ?」  局長と副長のだんだら羽織論争を横目に、原田がきいてくる。 「そうですね。歴史、とりわけ戦とか暴力がからむようなものは、どちらかといえば男性が好むものですが、おれのいた になりますと、女性も興味を抱くようになりまして」 「ほう」 「へー」  女性というに反応するのは、もちろん、ナンパ野郎というのか、スケコマシというのか、副長と原田である。「もちろん、昔を踏襲した真面目な話もおおいです。ですが、タイムスリップ、つまり時代を逆行するおれみたいな話とか、転生、これは死んで生き返ったらこの時代のだれかになっていた、とかがおおいですね。そういう話も、たいていは若い女性か男性・・・」  いってから、はたと気がつく。  幕末にかぎらず、タイムスリップ系や転生は、高校生の男女、もしくはそれにちかい がおおくないか、と。 「信長Oシェフ」、主人公のフレンチのシェフは、結構いってたよな。それから、「JON」。幕末にタイムスリップする脳外科医の話。あれも、主人公は結構いってた。  だが、ほとんどが若い。すくなくとも、犬連れの二十代というのは、なかった、よな? 「そういう設定でなくっても、ありで男装で入隊する女性とか・・・。うーん、真面目な話でも、たいていは、色恋がからむものですね。あ、もちろん、女性とのって意味です。創作の基本は、バイオレンス、セックス、チルドレンやアニマルですから」  わざと日本語はつかわない。  ふと、双子と があう。  二人の傷だらけの に、ニンマリと笑みが浮かぶ。  意味が、わかるのか?きっと、異世界転生で通訳でもやってったんだろう。 「つまり、暴力、色恋、子どもや動物。これらが入っているほうが、ウケるのです」  なんだか、創作講座っぽくなってる。 「それで、その男装の というのは?どうなる?」  以外にも、斎藤が喰いついてきた。  そういえば、少女漫画で、男装の女の子が入隊し、そこで繰りひろげられるどたばたストーリーがある。女の子は月代まで剃って入隊するが、沖田にバレてしまう。二人は、好き同士になるが、そこはストーリー上、すれちがい、誤解、がおおく・・・。その のことを、たしか斎藤が好きになるんだったか?  思わず、ぷっとふいてしまう。想像できない・・・。 「たいてい、だれかと恋仲になりますよね。でもほら、女性ってバレたら大変ですからね。それを巡って、筋書きがすすんでゆくわけです。斎藤先生は、クールな、いえ、冷静な剣士で、副長の懐刀として、めっちゃかっこよく描かれていますよ。女性との逢瀬もあったりして」  斎藤の

には、できうるかぎり添うつもりです。無論、できぬ場合もありますれば・・・」

 

 ついてゆきたいと信じる主・・・。

 

 俊冬の言葉がせつない。

 

 どれだけ蹴られようがののしられようが、尻尾を振って気を惹く犬・・・。

 

「なれど、たまには犬も主を甘噛みいたします」

 

 俊春がいい、二人同時に頭を軽く下げる。

 

 刹那、副長と永倉が同時に膳を脇へどける。肺癌 永倉は、体ごと双子へ向き直り、副長と同時に頭をさげる。

 

「すまなかった。いまさら、いい訳はしねぇ。詫びのしようもねぇ」

「すまない。おれも、いい訳はせん」

 

 いさぎいい。いっそすがすがしい。

 

 その二人に、双子は膝行してちかづき、掌をそえ頭をあげさせる。

 と同時に、副長と永倉の眼前に、拳をさしだす。

 

「主計から、教えてもらいました。異国では、拳と拳を打ち合わせることで、たがいの気持ちが通じ合ったり、挨拶したりするそうです」

 

 俊冬の説明に、副長と永倉が をみ合わせる。

 

 副長は俊春と、永倉は俊冬と、拳を打ち合わせる。

 

 双子の仲直り法。すごい、としかいいようがない。

 

 副長には、おれたちの漬物皿から沢庵をわけ、飯は、永倉へ。

 フツーの沢庵の枚数、飯はフツー盛りで、おいしくいただいた。

 

 もっとも、島田だけは、「この量でいい」、とだれにも手をつけさせなかったが・・・。 朝餉ののち、局長がやってきた。付き添いのはずの野村は、食あたりで医学所に拘束されているらしい。

 

 まったくもう・・・。まぁ、医者嫌いの野村である。ちょっと気の毒でもある、か。

 

 局長は、双子の をみ、「ムOク」の叫び状態になった。が、双子から、話があるときき、かろうじて驚きや疑問をおしとどめたようである。

 

「先日、原田先生と主計、それと弟に接触してきた老人を調べました。例の忍びに、間違いはありませぬ。ですが、一人ではございません。開戦前、江戸でおこなわれていた御用盗、あの残党の一部が、まだこの江戸市中に残っていたようで、それをかき集めたようです」

 

 俊冬が、報告する。

 

 薩摩が幕府を挑発するために、おこなわれたテロ活動。浪士たちをかき集め、おこなわせたのである。

 

 そのベタな挑発に、まんまとひっかかった幕府。薩摩藩の江戸屋敷を、焼き討ちしてしまう。

 

 そのテロ活動に加わったほとんどは、捕縛されている。

 

 有名どころでは、率いる赤報隊も、西郷からを受け、加わっていた。

 

 余談だが、相良らは、このときにはで西へ逃れた。

 この悲劇の男は、もう間もなく偽官軍との汚名を着せられ、下諏訪で処刑される。

 

 それは兎も角、捕縛を逃れた浪士たちを、集めたというのか。「数は?」

「九名。集められた浪士の一人として長屋へゆき、こので確認しております。忍びは、で確認しております。忍びは、 対策のため、依頼主に人をよこすよう願いでたのです」

 

 副長の問いに、俊冬は簡潔に答える。いまので、副長のしりたいことのすべてが詰まっているはず。

 

「いや、よくぞばれなかったものよ」

 

 局長が、唖然としたで問う。

 

「伊賀者は、伊賀の忍術しかしりませぬ。が、われらは、伊賀甲賀にとどまらず、戸隠、風魔、葉隠、義経、羽黒などなど、さまざまな流派を学んでおりますゆえ」

 

 しれっと応じる俊冬。

 

 おれたちは、こういう双子に慣れてしまっている。「いや、そういう問題ではなかろう?」

「いいんだよ、かっちゃん。これが、こいつらだ。でっそいつらは、おれたちを狙ってくるんだな?」

 

 副長が苦笑しつつ、局長をなだめる。

 

「はい、副長。集められた輩は、幕府の

「相棒、ほら、朝飯だ」

 

 お座りして睨みつけてくる相棒のまえに、ぶっかけ飯を置く。富士山のごとく盛られた飯のふもとに、ぐるーっときれいに沢庵が並んでいる。その量は、半端ない。

 

「おまえ、いつもこんなに沢庵のおまけがあるのか?そりゃぁ、俊春殿が好きになるよな?」

 

 相棒の、じとーっとした ・・・。

 

「あたおかすぎであろう、と申しておる」

「ひいいいいいっ!」

 

 右耳にささやかれ、飛び上がってしまう。

 

「ななっ!あたおか?」

 

 もちろん、ささやいてきたのは、相棒の代弁者俊春。

 

 あたおか?なんだっけ?

 

「頭がおかしい、と申しておる」

「はいいいいいいっ?」

 

 左耳に、俊冬のささやき。

 

「頭がおかしい?なんでです?」

「そもそも、兼定が弟のことを好きなのは、飯を供するという理由からだけではない」

「あ・・・。わかってます。でも・・・」

 

 俊冬の鋭い指摘。わかっちゃいるが、そんなささいなことで納得せねば、やるせなさすぎでしょう?

 

「兼定、副長のおかげで、今朝は大盤振る舞いだ」

「副長のおかげ?どういう意味なんです、俊春殿?」

 

「さぁ、朝餉の時間だ。掌を洗ってこい」

 

 俊冬も俊春も、胸元に膳を幾つも抱え、背にお櫃を背負っている。

 

 俊冬に促され、相棒にまたな、といってから掌を洗いにゆく。 部屋にゆくと、やけに静かである。

 

 副長を上座に、左右にわかれて永倉、島田、原田、斎藤が並んでいる。

 

 斎藤の横に座す。

 

 膳の上に並んだおかずが、神々しすぎる。

 

 双子は、みなが注目するなか、お櫃から茶碗に飯をよそっている。みな、おあずけを喰らった犬のごとく、辛抱強くまっている。

 

「ちょっ・・・」

 

 思わず、口からでてしまう。

 

『仏様にお供えするんじゃない。そんなに盛るな』

 

 昔、食事のとき、茶碗に飯をてんこ盛りにしてしまい、親父に叱られたことがある。

 

 双子は、そんなレベルなどとおの昔にすぎ、通天閣か東京タワーかってレベルもすぎ、ハルカスや都庁なみに盛りつづけている。

 

 ってか、よくもまあこれだけ器用に・・・。

 

 それを、原田と島田の膳の上におき、また盛りはじめる。

 

 みな、ビミョーな で、耐えている。

 

 さりげなくみると、副長の膳の上の飯は、フツー盛りである。

 

 おれのそれへと をうつす。

 

 香の物が、いつも沢庵は二枚ほどなのに、漬物皿からはみでるほど盛られている。

 

 そしてまた、飯を高層ビル盛りする双子。

 

 そそくさと、斎藤とおれの膳の上に置いてくれる。

 

 沈黙・・・。

 

 廊下をはさんだ向こう側から、おだやかな陽が射し込んでいる。双子のどちらかがやったのか、雀たちが飯をついばんでいる。

 

 シュッと、長火鉢の薬缶が音を立てる。

 

「悪かった」

「悪かったよ」

 

 副長と永倉が、同時に怒鳴る。二人とも、バツが悪いのか、は、あらぬ方向を向いている。

 

 原田、島田、斎藤の両肩が震えている。

 

 みると、永倉の膳の上に、おかずはのっているが飯はない。

 

「気のすむまで、罵倒してくれ」

「気のすむまで、殴れ」

 

 副長と永倉が、また怒鳴る。

 

「罵倒のほうが、よほどいい。頼むから、沢庵をくれ」

「殴られて、血まみれになるほうがいい。頼むから、飯をくれ」

 

 二人が、またまた怒鳴る。

 

 なんてこと・・・。

 

 そういえば、さっき、俊春が、EGFR肺癌 「沢庵の大盤振る舞いは、副長のおかげ」、と相棒にいっていた。そして、おれたちの沢庵も、大盤振る舞いである。

 

 副長の漬物皿はみえないが、沢庵がないってことか。

 

 そして、「 」の永倉は、飯がない。

 

 双子の傷だらけの に、いたずらっ子のような笑みが浮かぶ。

 

「われらは、いかなる暴力も好きではありませぬ。ましてや、ついてゆきたいと信じる主にたいして・・・。われらは犬ゆえ、恩ある主の

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