2023年06月
には、できうるか
には、できうるかぎり添うつもりです。無論、できぬ場合もありますれば・・・」
ついてゆきたいと信じる主・・・。
俊冬の言葉がせつない。
どれだけ蹴られようがののしられようが、尻尾を振って気を惹く犬・・・。
「なれど、たまには犬も主を甘噛みいたします」
俊春がいい、二人同時に頭を軽く下げる。
刹那、副長と永倉が同時に膳を脇へどける。肺癌 永倉は、体ごと双子へ向き直り、副長と同時に頭をさげる。
「すまなかった。いまさら、いい訳はしねぇ。詫びのしようもねぇ」
「すまない。おれも、いい訳はせん」
いさぎいい。いっそすがすがしい。
その二人に、双子は膝行してちかづき、掌をそえ頭をあげさせる。
と同時に、副長と永倉の眼前に、拳をさしだす。
「主計から、教えてもらいました。異国では、拳と拳を打ち合わせることで、たがいの気持ちが通じ合ったり、挨拶したりするそうです」
俊冬の説明に、副長と永倉が をみ合わせる。
副長は俊春と、永倉は俊冬と、拳を打ち合わせる。
双子の仲直り法。すごい、としかいいようがない。
副長には、おれたちの漬物皿から沢庵をわけ、飯は、永倉へ。
フツーの沢庵の枚数、飯はフツー盛りで、おいしくいただいた。
もっとも、島田だけは、「この量でいい」、とだれにも手をつけさせなかったが・・・。 朝餉ののち、局長がやってきた。付き添いのはずの野村は、食あたりで医学所に拘束されているらしい。
まったくもう・・・。まぁ、医者嫌いの野村である。ちょっと気の毒でもある、か。
局長は、双子の をみ、「ムOク」の叫び状態になった。が、双子から、話があるときき、かろうじて驚きや疑問をおしとどめたようである。
「先日、原田先生と主計、それと弟に接触してきた老人を調べました。例の忍びに、間違いはありませぬ。ですが、一人ではございません。開戦前、江戸でおこなわれていた御用盗、あの残党の一部が、まだこの江戸市中に残っていたようで、それをかき集めたようです」
俊冬が、報告する。
薩摩が幕府を挑発するために、おこなわれたテロ活動。浪士たちをかき集め、おこなわせたのである。
そのベタな挑発に、まんまとひっかかった幕府。薩摩藩の江戸屋敷を、焼き討ちしてしまう。
そのテロ活動に加わったほとんどは、捕縛されている。
有名どころでは、率いる赤報隊も、西郷からを受け、加わっていた。
余談だが、相良らは、このときにはで西へ逃れた。
この悲劇の男は、もう間もなく偽官軍との汚名を着せられ、下諏訪で処刑される。
それは兎も角、捕縛を逃れた浪士たちを、集めたというのか。「数は?」
「九名。集められた浪士の一人として長屋へゆき、こので確認しております。忍びは、で確認しております。忍びは、 対策のため、依頼主に人をよこすよう願いでたのです」
副長の問いに、俊冬は簡潔に答える。いまので、副長のしりたいことのすべてが詰まっているはず。
「いや、よくぞばれなかったものよ」
局長が、唖然としたで問う。
「伊賀者は、伊賀の忍術しかしりませぬ。が、われらは、伊賀甲賀にとどまらず、戸隠、風魔、葉隠、義経、羽黒などなど、さまざまな流派を学んでおりますゆえ」
しれっと応じる俊冬。
おれたちは、こういう双子に慣れてしまっている。「いや、そういう問題ではなかろう?」
「いいんだよ、かっちゃん。これが、こいつらだ。でっそいつらは、おれたちを狙ってくるんだな?」
副長が苦笑しつつ、局長をなだめる。
「はい、副長。集められた輩は、幕府の
「相棒、ほら、朝飯だ」
「相棒、ほら、朝飯だ」
お座りして睨みつけてくる相棒のまえに、ぶっかけ飯を置く。富士山のごとく盛られた飯のふもとに、ぐるーっときれいに沢庵が並んでいる。その量は、半端ない。
「おまえ、いつもこんなに沢庵のおまけがあるのか?そりゃぁ、俊春殿が好きになるよな?」
相棒の、じとーっとした ・・・。
「あたおかすぎであろう、と申しておる」
「ひいいいいいっ!」
右耳にささやかれ、飛び上がってしまう。
「ななっ!あたおか?」
もちろん、ささやいてきたのは、相棒の代弁者俊春。
あたおか?なんだっけ?
「頭がおかしい、と申しておる」
「はいいいいいいっ?」
左耳に、俊冬のささやき。
「頭がおかしい?なんでです?」
「そもそも、兼定が弟のことを好きなのは、飯を供するという理由からだけではない」
「あ・・・。わかってます。でも・・・」
俊冬の鋭い指摘。わかっちゃいるが、そんなささいなことで納得せねば、やるせなさすぎでしょう?
「兼定、副長のおかげで、今朝は大盤振る舞いだ」
「副長のおかげ?どういう意味なんです、俊春殿?」
「さぁ、朝餉の時間だ。掌を洗ってこい」
俊冬も俊春も、胸元に膳を幾つも抱え、背にお櫃を背負っている。
俊冬に促され、相棒にまたな、といってから掌を洗いにゆく。 部屋にゆくと、やけに静かである。
副長を上座に、左右にわかれて永倉、島田、原田、斎藤が並んでいる。
斎藤の横に座す。
膳の上に並んだおかずが、神々しすぎる。
双子は、みなが注目するなか、お櫃から茶碗に飯をよそっている。みな、おあずけを喰らった犬のごとく、辛抱強くまっている。
「ちょっ・・・」
思わず、口からでてしまう。
『仏様にお供えするんじゃない。そんなに盛るな』
昔、食事のとき、茶碗に飯をてんこ盛りにしてしまい、親父に叱られたことがある。
双子は、そんなレベルなどとおの昔にすぎ、通天閣か東京タワーかってレベルもすぎ、ハルカスや都庁なみに盛りつづけている。
ってか、よくもまあこれだけ器用に・・・。
それを、原田と島田の膳の上におき、また盛りはじめる。
みな、ビミョーな で、耐えている。
さりげなくみると、副長の膳の上の飯は、フツー盛りである。
おれのそれへと をうつす。
香の物が、いつも沢庵は二枚ほどなのに、漬物皿からはみでるほど盛られている。
そしてまた、飯を高層ビル盛りする双子。
そそくさと、斎藤とおれの膳の上に置いてくれる。
沈黙・・・。
廊下をはさんだ向こう側から、おだやかな陽が射し込んでいる。双子のどちらかがやったのか、雀たちが飯をついばんでいる。
シュッと、長火鉢の薬缶が音を立てる。
「悪かった」
「悪かったよ」
副長と永倉が、同時に怒鳴る。二人とも、バツが悪いのか、は、あらぬ方向を向いている。
原田、島田、斎藤の両肩が震えている。
みると、永倉の膳の上に、おかずはのっているが飯はない。
「気のすむまで、罵倒してくれ」
「気のすむまで、殴れ」
副長と永倉が、また怒鳴る。
「罵倒のほうが、よほどいい。頼むから、沢庵をくれ」
「殴られて、血まみれになるほうがいい。頼むから、飯をくれ」
二人が、またまた怒鳴る。
なんてこと・・・。
そういえば、さっき、俊春が、EGFR肺癌 「沢庵の大盤振る舞いは、副長のおかげ」、と相棒にいっていた。そして、おれたちの沢庵も、大盤振る舞いである。
副長の漬物皿はみえないが、沢庵がないってことか。
そして、「 」の永倉は、飯がない。
双子の傷だらけの に、いたずらっ子のような笑みが浮かぶ。
「われらは、いかなる暴力も好きではありませぬ。ましてや、ついてゆきたいと信じる主にたいして・・・。われらは犬ゆえ、恩ある主の