に立った。
だが直ぐに山野が座っていた座敷に人の気配を感じる。随分と早いと思いつつ、見上げるとそこには三木がいた。
「み、三木さん…?」
酒を片手に、避孕藥 赤ら顔の三木は何処か千鳥足である。すっかり目が据わっており、とても素面とは言えない風体だった。
三木はそのまま桜司郎、馬越の間に移動すると無理矢理座り込んだ。
強い酒の匂いが漂い、桜司郎は顔を顰める。
「…おい。なァ…、お前ら妓の格好してみろよ。絶対似合うぜ」
先日、三木は桜司郎を馬鹿にしたことで伊東から叱られていた。だが、どうしても桜司郎が強いとは思えなかった三木は軽い逆恨みを覚える。
と言うより、この妓楼で花を売っているという方が余程似合うと心の中で嘲っていた。
「な…ッ」
「え、ええっ」
桜司郎は目を見開き、馬越は動揺の声を上げる。三木は手持ちの酒を口に運ぶと、た笑みを浮かべた。
純粋な好奇心では無く、明らかに見下したようなそれに桜司郎は不快感が込み上げる。
「良いじゃねえか…、余興って奴だ。な、俺らに京に残って貰いてえんだろ。やってくれたら俺から兄上に進言してやるぜ…」
三木の言葉に桜司郎は顔を上げた。
──近藤局長は伊東先生に正式に加盟して貰いたがっている。もし、女の格好をするだけでそれが叶うんなら、沖田先生も喜んでくれるだろうか。
チラリと馬越の顔を見た。すると、存外嫌がっている表情では無い。綺麗な物に対する憧れが勝っているようだ。
「す、鈴木君…どうしましょうか」
だが、自分は男なのだという自制心もあってか、馬越は頷けずにいた。
「本当に…伊東さんに進言して下さるんですか?酔っていたから無しは怒りますよ」
桜司郎の問い掛けに三木はニヤリと笑い、頷く。
「何なら、証文も書いてやるよ。…ほら」
三木はそう言うと矢立を取り出し、懐紙に達筆な字で進言する旨を書き繕っては桜司郎へ突き出した。
「…約束ですからねッ」
桜司郎の言葉を了承と受け取った三木は近くの妓へ耳打ちをする。当然、妓は困惑しているが押しに負けたのか部屋を後にした。
桜司郎は沖田を盗み見る。近藤の横で楽しそうに酒を飲んでいた。
そこへ、厠から山野が戻って来る。神妙な顔付きの桜司郎に気付いたようで、話しかけて来た。
「桜司郎、険しい顔してどうしたんだ?」
「今から面白いモノが見れるぞ。お友達の艶姿だ」
そこへ三木が茶々を入れる。桜司郎は三木を睨み付けた。
やがて、妓が戻って来ては準備が出来た旨の耳打ちをする。
三木は懐から幾許かの金を妓の袷に差し入れた。
「では、御二方此方へ…。うちの置屋で着替えて貰いますよって」
「着替え?何か汚したのか?」
山野の問い掛けに桜司郎と馬越は答えない。そっと立ち上がると、妓の後に続いた。
おい、と二人を追いかけようとする山野の袖を三木が引っ張る。
「二人が余興をしてくれんだとよ。邪魔するんじゃねえ。…と、何だよ。お前も綺麗な顔してんな。だが、背丈があってゴツくて駄目だな」
「余興?何で楽しそうなものに俺が参加しちゃ駄目なんだよ。ゴツくて駄目ってなんだ?色男だろうが」
山野は的を得ない返答に多少の苛つきを覚えながら、手酌で酒を煽った。