翌日。
買い物に出たお義姉さんが足のリハビリにと買って来たのは、マッサージも出来るイボ付きの足踏み竹。
右足は確かに動かないが、幼兒 playgroup 原因は足の付け根の神経であって、足首や足の裏や指なんかは感覚がある。
だから、当然――。
「いたたたたっ!」
「え? そんなに!?」
拒む俺を無視して、お義姉さんは右足を持ち上げて竹の上にのせた。自力では足を持ち上げられないということは、力加減も出来ないわけで、足つぼが刺激されて痛いのに逃げられないということ。
何とか足を下ろそうと力を込めれば、余計にイボが足裏に食い込んだ。
「ストップ! 無理! マジで無理!!」
あまりの痛さに身体を仰け反らせると、その弾みで足が竹を蹴飛ばした。
「すみません! そんなに痛いとは思わなくて――」
お義姉さんは予想以上に悶絶する俺を見てオロオロしている。
「――大丈夫ですか!?」
俺は左肘で身体を支え、ソファに対し斜めになっていた。
うちのソファは柔らかい。年季が入っているから尚更で、昔はふかふかしていて座り心地が良かったが、不自由な体では沈み込み過ぎると起き上がれない。
「失礼しますね」
そう言うと、お義姉さんは正面から俺に抱き着くように身体を密着させ、細い腕で腰に手を回した。
こうして身体を寄せるのは、昨日に続いて二度目で、昨日同様に石鹸の香りがした。 グッと腰を持ち上げられ、ソファに直角に座りなおせた。
「すいません」
「いえ。私こそすみません。足の感覚がないようなら、いい刺激になるかと思ったのですが……」
お義姉さんはソファの下に正座して、しゅんと肩を落とした。
「どんなリハビリが必要か確認もしないで、すみません」
「俺もちゃんと言わなかったんで。気にしないでください」
今日のお義姉さんは、紺のシャツにジーンズ。シャツは丈が長めで、尻まで隠れている。ジーンズはインディゴのストレート。それから、髪はやっぱり後ろできつく結んでいる。
巷で流行っている襟が大きく開いたシャツではないから、昨日同様にボタンは一番上以外はきちんと留められている。
いや、だからどうしたって話なんだけど……。
萌花の露出の多い服装を見慣れていたせいか、ここまで露出がないとかえってそそられるようだ。
つーか、仮にも義姉に対して、なんつーことを考えてんだ……。
やはり、二か月間の入院生活と禁欲生活で、調子がくるっているらしい。
「あの、出来れば、身体の状態を教えてもらえませんか? 専門家ではないですが、少しは介護の経験があるので、お役に立てるかもしれませんし」
「いえ。俺の方こそ、手伝いを頼むのにちゃんと説明していなくてすみませんでした。コーヒーを淹れてもらっていいですか。ダイニングで話しましょう」
俺はソファの脇に立て掛けてある杖を右手で掴み、床に真っ直ぐに立てた。
右手首と左足に力を入れて、腰を浮かせる。と、またも石鹸の香りを間近で感じた。
お義姉さんは俺の、杖を持つ右手に手を添え、右脇を下から支えるように身体を密着させた。
「あ……の」
「無理をすると右手首を痛めそうな気がします」
確かに、今朝起きたら右手首が痛かった。
杖での移動にろくに慣れていない状態で、無理をしたかもしれない。
「ありがとうございます」
結局、杖を突くことなく、俺は彼女に脇を抱えられたままダイニングテーブルまで移動した。
俺を椅子に座らせ、彼女は台所でコーヒーを淹れ、戻って来た。
「ブラックでいいですか?」
「はい。ありがとうございます」
俺は指が曲げられる左手でカップを持ち、手首が曲がる右手で底を押さえた。
大きくふぅっと湯気を吹くと、一口飲む。
「萌花からは、どう聞きました?」
「事故で手足に麻痺があって、リハビリ次第では動くようになるかもしれない、と」
なんてざっくりな説明だ。
俺はゆっくりとカップを置き、テーブルの上両手を広げて見せた。
「左手の指は動かせます」と言って、左手を握ったり開いたりして見せる。
「けど、手首は動かせません」
手首に力を入れるが、血管が青く浮き上がるだけ。
お義姉さんはじっと俺の手を見つめている。