あわや、ビャッコ芋刺しかと見えたが、細身の剣で槍を弾いて体の右側に外した。しなりのある細身の剣でハンベエが使う対騎馬用の重い槍を弾くなどは出来そうにない事なのだが、これが技術と言うものなのであろう。少しの逡巡も見せず、ビャッコは馬を走らせて、ハンベエの脇を走り抜けて行く。すれ違いざま、ビャッコの剣の切っ先がハンベエの首筋を襲う。ハンベエ、片手握りの槍の柄で払った。槍の重さを全く苦にしないハンベエの腕っ節である。此処まで破竹の勢い、坂を転げ落ちる鉄球の如き強さで突き進んで来たタゴロローム軍であったが、ビャッコの連隊に阻まれて足踏みが始まった。

.ハンベエの槍を躱したビャッコは今度は馬を前に飛ばした。ハンベエはビャッコの胸元目掛けて正面から突いた。 ビャッコの連隊はその殆どが弓を装備していた。彼等はタゴロローム軍の槍部隊の前に出てくると、盾を打ち並べて繋いで壁を作ると片膝立ての姿勢で盾の上から矢を放った。 槍部隊との距離は十数メートルである。moomoo singapore https://topick.hket.com/article/3001018/%E7%B6%93%E8%A1%80%E9%81%8E%E5%A4%9A%E8%87%B4%E9%A0%AD%E6%9A%88%E5%8F%8A%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%80%80%E8%97%A5%E6%80%A7%E5%AD%90%E5%AE%AE%E7%92%B0%E5%8A%A9%E6%B8%9B%E7%B6%93%E9%87%8F%E3%80%80%E5%A9%A6%E7%94%A2%E7%A7%91%E5%B0%88%E7%A7%91%E5%BC%B5%E5%87%B1%E6%99%B4%E9%86%AB%E7%94%9Fこの距離で押し寄せるタゴロローム軍の圧力に怯む事無く、そんな戦術が取れるとは、これ等の兵士の勇猛さが知れよう。大口叩きのビャッコであったが、兵士の勇猛さは指揮官への信頼度、敬慕の強さに比例する。ビャッコは武将として非凡な器だという事なのだろう。ハンベエやドルバスの覇気猛気冒刃(ぼうじん)の気に感染して命知らずと化しているタゴロローム兵士とても、この距離で矢を放たれては堪ったものではない。最前列を駆けて来た者達がバタバタと倒れて足が止まった。ハンベエは目の端でその光景を見ていたが、顔色一つ変えない。が、顔色は変えないがマズいとは思ったらしい。絡んで来たビャッコなど目もくれず、盾を並べて守ろうとするビャッコの軍に馬を煽って突進して行った。冒刃とは俺の姿の事だと言わんばかりのハンベエの強気である。忽ち、ビャッコの軍の矢はハンベエに集中した。 しかし、当たらない。当たらないのである。ハンベエの動きが素早過ぎるのか、その周りに風でも渦巻いてでもいるのか、まるで矢が反れてでも行くかのように外れてしまうのである。 ハンベエは立て並べられている盾の壁を馬蹄で踏み破り、槍を右に左に薙ぎ払ってビャッコの弓部隊を蹂躙した。大将が勇ましく敵中に乗り込んでいるのに、後ろの兵士達が怯んではいられない。一瞬足踏みしていたタゴロロームの槍兵士達はうおおおっと獣じみた声を上げて勇気を奮い起こし、矢を冒してビャッコの軍に襲い掛かって行った。直ぐに大混戦が始まった。. ハンベエとすれ違って十数歩馬を走らせたビャッコは、ハンベエがそのまま自軍の陣に突入して行ったのを見て、慌てて馬を返してハンベエを追ったが、近寄る間もなく両軍混戦となっていた。タゴロローム本陣の右翼に居て、目の前で展開されているビャッコの軍とハンベエ達の白兵戦をじっと見ている男がいた。

今は信頼をかなり失って影響力が衰えているが、ステルポイジャンの片腕とされているガストランタである。ガストランタは連隊を三つとステルポイジャン軍に残った五百丁の弩の運用を任されていた。そして、その弩は本陣右翼に設置されていた。敵の軍が本陣に迫った特に一斉射撃で敵に打撃を与える為である。 ガストランタは目の前で展開されている死闘を見ながら、弩を放つタイミングを計っていた。まさか、こんなに近くまでタゴロローム軍が迫って来ようなどとは思っていなかったので、弩を放つ命令を出す踏ん切りが中々つかないでいた。弩を放つと同時に軍を進めて敵を押し返さなければならないとガストランタは考えていた。押し返せば、ハンベエ達の軍は包囲されて崩れるのは目に見えている。とガストランタは思っていた。