2019年11月

" 滋賀学院バッテリーのサイン交換が長く続いていた。最警戒モードに入っている。対する滝音はその点、織り込み済みだ。
 ここからが知恵比べ。最警戒モードの初球は何を投げてくるか。その後は? 何球目がバ frederique 無針埋線 ティングチャンスか?

 まず、滋賀学院バッテリーも滝音も一致したのが、初球を簡単なストライクコースには投げないということ。 

 一方の滝音は、初球は外角低めのストレートと読んだ。滝音の読みは見事に当たっている。だが、その初球を滝音は振ることはない。川原の外角低めへのストレートは素晴らしい。ここまでの被打率なんと0.000。1本もヒットを打たれていないのだ。いくら読んだとはいえ、滝音は打てないと判断していた。初球はそのストレートをわざと手が出ないというように見送る。そう決めていた。 悩んだ末に滋賀学院バッテリーは川原のピッチングの基本であるストレートを選択した。

 ちなみに、この時、実は滝音の頭脳にはツーアウトで一、二塁となる画が見えていた。五球目を打ち、センター前ヒットとなる筋書きが既に完成していたのだ。かなり高い確率でそうなると滝音は確信していた。
 何故、そこまで言い切れるのか? もし、滝音が誰かにそう聞かれたとする。
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 滝音はこう答えるだろう。
「それは、ここまでの四試合でそうなるように伏線を張ってきたからです」
 と。"

"───滝音はこの大会前、副島が引いた組合せのくじを見て、大会をシミュレーションしてみた。
 初戦の遠江姉妹社が課題だ。ほぼ初めての実践となる。その後にあたる高校には、慣れればおそらく勝てる。
  親子活動 が、準決勝の滋賀学院、そして決勝の遠江には負ける可能性の方が高い。どれだけ俺らが野球経験値を上げられるかだが、それは読みにくい。

「わたしはまだみんなの実力を知らない。でも、滝音くんがそう分析するのなら間違いないと思う。じゃあ、わたしはとりあえず遠江姉妹社の徹底的な分析に注力するわね」

「ああ、頼む」

 ならば、俺もやっておくことがある。
 ひとつ、罠を仕掛けておく。
 滋賀学院や遠江はしっかりと分析をしてくるだろう。俺が打たずとも準々決勝まで何とかなるのであれば、滋賀学院とあたるまで、しっかりとした弱点を見せてやる。甘い罠を。

 こうして、誰にも気づかせずに滝音はここまでの四試合で、あることを徹底していた。
『真ん中と内角へのスライダーは全て凡退する』
 そんな甘い罠だった。"

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