そしてエイジャは、それを当然と毛程も疑わず、声高に言い放った。「わたしはエイジャ・エトランセだ。このわたしと直接話す栄誉をやろう。よく、考えたまえ」エイジャの語り口に関しては、こ晚上 護膚步驟まで偉そうだと逆に凄い。この世界、この国として、ハルやアルスたちの態度とこいつやエルマの態度、どちらが標準なんだろうか。貴族の威光はどの程度浸透しているのか、少しは興味があった。「では問おうか。――この席は、誰の席かね?」エイジャの登場から名乗りの辺りで既に呑まれていた夫婦は、お互いを伺うように怯えた目線を交わす。あまり長くない逡巡ののち先に立ち上がったのは、妻の女性の方だった。固く握った右手に、今突然「無用となった」チケットの端が覗いていた。決断した妻にその先を言わせるのが忍びなかったのか、答えたのは妻に少し遅れて立ち上がった夫。「……お許し下さい、エトランセ家の御子息様。わたくし共が、席を間違えたようです」権力者の我儘は、災害に似てる。「向こう」で俺にそう言ったのは、誰だったか。何時起こるか予測も出来ず、一度起きれば避けようがない。理不尽な現実を無理矢理享受させられる、と。――そう確か、ヒトに滅ぼされたとある種族を、俺が気紛れに1人だけ助けた時に、たった1人だけ助かるなら、皆と逝きたかったと嘆いた際の言葉だった。その「権力者」に位置した俺は、そうかもなと笑って答えた記憶がある。そうしたら呪い殺されそうな目で睨まれた。今此処で、エイジャを止めるのは簡単だった。だが俺は、成り行きを黙って見ていた。もしあの夫婦が少しでも逆らう素振りを見せたなら、また違ったかもしれないが。彼らは従うことを選択した。なら俺が言うことは何もない。「ああ、わたしは寛大だからね。こんなことで怒りはしないよ」だが俺とは違い、黙っていられない人間も居た。それも複数。鷹揚と頷いたエイジャに、とうとう口を開く。「恥ずかしく、ないんですか。エイジャ様」口火を切ったのは、意外な人物だった。会場内は皆固唾を呑んで成り行きを見守っていたため、声は思いの外大きく響く。先を越されたツァイが立ち上がったククルを見上げて、目を瞠った後に微笑んだ。「どういう意味かな?」「そのままです。そんな真似して、恥ずかしくないんですか?位は違えど同じ貴族として、私は恥ずかしいです」